カスハラ防止法改正の最新動向!企業の義務化内容と実務対応のポイントを弁護士が解説

近年、顧客からの理不尽な要求や暴言などによる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題として注目されています。2025年には労働施策総合推進法の改正によって、企業にカスハラ防止対策が義務化される見込みです。これにより、多くの企業がカスハラへの対応策をより優先度高く検討しています。本記事では、カスハラ防止法の最新動向から、企業に求められる具体的な対応策まで、実務に役立つ情報を詳しく解説します。

カスハラとは?法改正が求められる背景

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客が従業員に対して行う、過度な要求や暴言、脅迫、執拗なクレームなど、業務の適正な範囲を超えた言動を指します。近年、サービス業を中心に深刻な問題となっており、従業員のメンタルヘルス悪化や離職率上昇などの原因となっています。

クリニックでは診察待ち時間に関する過剰なクレームや、ECサイトでは返品・交換に関する理不尽な要求など、業種を問わず多様なカスハラが報告されています。このような状況を背景に、法的規制の整備が社会的要請として高まっているのです。

従来、カスハラへの対応は企業の自主的な取り組みに委ねられてきましたが、従業員保護の観点から、より強固な法的枠組みが必要とされるようになりました。2022年には厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表し、企業向けガイドラインを示しています。

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2025年カスハラ防止法改正の最新動向

2025年には、カスハラ防止に関する法制度が大きく変わる見込みです。国レベルの法改正と地方自治体独自の条例制定という二つの流れが同時進行しています。

労働施策総合推進法改正案の概要

2025年3月に国会へ提出された労働施策総合推進法改正案では、事業主に対してカスハラ防止措置を講じる義務を課す内容が盛り込まれています。この改正は、既存のパワーハラスメントやセクシャルハラスメント対策と同様に、企業側に明確な責任を負わせるものです。

改正案には、企業のカスハラ防止のための方針明確化、相談体制の整備、発生時の迅速対応などが含まれています。また、これらの対策を怠った企業に対しては、企業名公表などの罰則も検討されています。法改正後は対策の有無ではなく、その実効性が問われるため、形式的な対応では不十分となるでしょう。

特に医療機関やECサイト運営企業など顧客との接点が多い業種では、より具体的かつ実効性のある対策が求められます。診療報酬請求のトラブルや、オンライン上での過剰なクレーム対応など、業種特有のカスハラリスクを想定した対策が必要です。

東京都カスタマーハラスメント防止条例の施行

地方自治体レベルでも、カスハラ防止に向けた動きが活発化しています。特に注目すべきは、2025年4月1日から施行されている「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」です。この条例は全国に先駆けた取り組みとして、他の自治体にも影響を与えています。

条例では事業者に対し、カスタマー・ハラスメント防止に向けた措置を講ずるよう努めることが求められています。具体的には、以下のような取り組みが推奨されています。

  • カスハラ防止に関する基本方針の策定と周知
  • 従業員向けの相談窓口設置
  • カスハラが発生した場合の適切な対応
  • 従業員への教育・研修の実施

東京都内で事業を営む企業は、この条例に対応するための体制整備が必須となります。地域によって適用される法規制が異なるため、複数の地域で事業展開している企業は特に注意が必要です。

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企業に求められる法的義務とリスク

カスハラ防止法の整備により、企業には従来以上に明確な法的責任が課されることになります。ここでは、企業が負う法的義務とそのリスクについて解説します。

安全配慮義務と使用者責任

労働契約法第5条に基づく「安全配慮義務」により、企業は従業員が安全に働ける環境を整える責任を負っています。カスハラ防止対策も、この安全配慮義務の一環と考えられます。企業がカスハラへの対策を怠った結果、従業員が精神的・身体的な被害を受けた場合、損害賠償責任を問われる可能性があります。

顧客からの理不尽なクレームや暴言によってスタッフがストレスを抱え、最悪の場合うつ病などを発症するケースも報告されています。従業員の健康被害が発生した場合の企業責任は重大であり、未然に防止することが極めて重要です。

また、企業には民法第715条に基づく「使用者責任」もあります。従業員がカスハラに耐えかねて顧客に不適切な対応をした場合、その責任は企業にも及ぶことがあります。

法改正後のコンプライアンスリスク

カスハラ防止法が施行されると、企業にはより明確な法的義務が課されます。この義務を怠った場合、以下のようなリスクが発生する可能性があります。

  • 行政からの是正勧告や企業名公表
  • 従業員からの損害賠償請求
  • 労働基準監督署からの調査
  • 企業イメージの低下と人材確保の困難化

特に注意すべきは、対策の「形式」だけでなく「実効性」が問われる点です。マニュアルを作成しただけ、相談窓口を設置しただけでは不十分とされる可能性があります。実際の現場で機能する対策の実施が求められるでしょう。

例えば、クリニックでは診療時間や待ち時間に関するトラブルが多いため、事前の情報提供や説明の充実など、カスハラの原因となりうる要素を減らす取り組みも重要になります。ECサイト運営企業では、返品・交換ポリシーの明確化や、よくある質問(FAQ)の充実などが効果的でしょう。

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企業が取り組むべきカスハラ防止対策

カスハラ防止法に対応するために、企業は具体的にどのような取り組みを進めるべきでしょうか。ここでは、実務的な観点から効果的な対策をご紹介します。

カスハラ防止方針の策定と周知

カスハラ防止対策の第一歩は、企業としての方針を明確にすることです。経営トップのコミットメントのもと、「カスハラを許さない」という姿勢を明確に打ち出しましょう。この方針は、社内だけでなく顧客にも広く周知することが重要です。

方針に含めるべき内容としては、まずカスハラの定義とその具体例を明記することが挙げられます。加えて、カスハラが発生した際の対応方針をあらかじめ定めておくことも必要です。さらに、従業員の安全を最優先に考える姿勢を明確に打ち出すとともに、顧客に対しても適切な協力を求める文言を含めることで、企業の姿勢を内外に示すことができます。

クリニックでは待合室や受付に掲示し、ECサイトではトップページや利用規約に明記するなど、顧客が必ず目にする場所への掲示が効果的です。また、社内ポータルサイトや定例会議などを通じて従業員にも繰り返し周知することが大切です。

方針の策定には、実際にカスハラに遭遇した経験のある現場スタッフの意見を取り入れることで、より実効性の高い内容にすることができます。顧客と直接接するスタッフの声を反映させましょう。

相談窓口の設置と対応体制の整備

カスハラ被害を受けた従業員が安心して相談できる窓口の設置は、法改正後に必須となる対策の一つです。相談窓口は単に設置するだけでなく、実際に機能する体制づくりが重要です。

効果的な相談窓口にするために、いくつかのポイントを押さえましょう。まず、相談のハードルを下げるため、匿名での相談を可能にしたり、メール・電話・対面など複数の相談手段を用意する工夫が求められます。また、相談を受ける担当者には、傾聴スキルや心理的ケアに関する知識など、適切な教育を行う必要があります。

さらに、相談を受けた後のフォロー体制も重要です。具体的には、必要に応じたメンタルヘルスケアの提供や業務内容の一時的な調整など、被害者への配慮が求められます。加えて、相談内容を記録・分析し、今後の再発防止策の検討に役立てる体制を整えておくことも大切です。

特に重要なのは、相談しやすい雰囲気づくりです。「我慢すべき」という職場文化があると、被害が潜在化してしまいます。相談者のプライバシー保護と不利益取扱いの禁止を徹底し、安心して相談できる環境を整えましょう。

従業員教育・研修プログラムの実施

カスハラ防止には、従業員への教育・研修が欠かせません。カスハラへの理解を深め、適切な対応方法を身につけることで、被害の拡大を防ぎ、早期解決につなげることができます。

効果的な研修プログラムとしては、まずカスハラの定義と具体例を提示し、業種ごとの典型的な事例を紹介しましょう。次に、カスハラが発生した際の初期対応手順について具体的に学び、冷静に行動できる力を養います。加えて、どのようなタイミングで上司や専門部署にエスカレーションすべきか、その判断基準と方法も共有しておく必要があります。

さらに、対応時に記録を残す際のポイントや、証拠を適切に保全する方法についても教育します。最後に、精神的な負担を軽減するためのセルフケアの方法も取り入れることで、従業員が安心して対応にあたれる環境づくりが可能となります。

研修は一度きりではなく、定期的(年1〜2回程度)に実施することが重要です。また、新入社員研修にもカスハラ対応を組み込むことで、入社時から意識づけができます。実際のケースを元にしたロールプレイング形式の研修が最も効果的です。

カスハラ対応マニュアルの作成と活用

カスハラ発生時に従業員が適切に対応できるよう、具体的な対応手順をまとめたマニュアルの整備も重要です。マニュアルは現場で実際に活用できる内容であることが重要で、理論よりも実践的な内容を重視すべきです。

マニュアルに含めるべき項目:

項目内容
初期対応の基本姿勢冷静さを保つ、共感的な姿勢で聴く、約束しないなど
エスカレーション基準上司や専門部署に引き継ぐべき状況の明確化
記録の取り方日時、内容、対応者、証拠など記録すべき情報
緊急時の対応暴力や脅迫があった場合の対応と通報基準
アフターケア被害者のケア方法、業務調整の検討など

マニュアルは単に作成するだけでなく、定期的な見直しと更新が重要です。実際に発生したケースを反映させ、常に現場の実態に即した内容に改善していきましょう。

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業種別カスハラ対策の実践例

カスハラ対策は業種によって異なる特性があります。ここでは、医療機関とECサイト運営企業に焦点を当て、業種別の具体的な対策を紹介します。

医療機関のカスハラ対策

医療機関では、患者の健康や生命に関わるデリケートな場面で対応するため、特有のカスハラリスクが存在します。待ち時間の長さ、診療内容への不満、保険適用の範囲など、様々な要因がカスハラのきっかけとなり得ます。

医療機関における効果的な対策として、以下のような取り組みが挙げられます。

  • 待ち時間の見える化(デジタル表示板の活用、アプリでの順番通知など)
  • 院内掲示による診療方針や料金体系の明確化
  • 複数スタッフでの対応体制の構築(一人で対応させない)
  • 緊急時の警備会社や警察との連携体制の整備
  • クレーム対応専門チームの結成(特に大規模医療機関)

特に小規模クリニックでは、院長を含めた全スタッフがカスハラ対応の基本を理解しておくことが重要です。診察前の丁寧な説明と、患者の不安を減らす配慮が予防策として効果的です。患者に寄り添った対応を心がけつつも、スタッフの安全を最優先する姿勢を明確にしましょう。

また、医療機関特有の対策として、待合室やカウンターの構造的な工夫も有効です。患者と一定の距離を確保できるカウンター設計や、カメラの設置による記録の保全なども検討すべきでしょう。

ECサイト運営企業のカスハラ対策

ECサイト運営企業では、顧客と対面せず、主にメールや電話でのやり取りとなるため、誤解が生じやすく、また匿名性から過激な言動になりやすいという特徴があります。

ECサイト運営企業における効果的な対策として、以下のような取り組みが挙げられます。

  • 利用規約やカスタマーサポートポリシーの明確化
  • FAQ・ヘルプページの充実による問い合わせ削減
  • チャットボットによる初期対応の自動化
  • 悪質ユーザーのブラックリスト化と利用制限機能の整備
  • SNS炎上対策マニュアルの整備

ECサイトでは特に、取引条件や返品・交換ポリシーを明確に表示し、後々のトラブルを防止することが重要です。商品説明や配送情報など、顧客が期待する情報を事前に提供することで、カスハラのリスクを低減できます。

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カスハラ防止対策のメリットと導入効果

カスハラ防止対策は、法的義務を果たすだけでなく、企業経営にもプラスの効果をもたらします。適切な対策を講じることで得られるメリットについて解説します。

従業員の定着率向上とモチベーション改善

カスハラは従業員の離職理由の上位に挙げられており、特に接客業やサービス業では深刻な問題となっています。適切なカスハラ対策を講じることで、従業員の安心感が高まり、職場への定着率が向上します。

ある医療機関の事例では、カスハラ対策を強化した結果、看護師の離職率が前年比30%減少したというデータもあります。従業員が「会社に守られている」と実感できることで、仕事へのモチベーションも高まります。従業員を守る姿勢を明確に示すことが、組織の一体感を生み出すのです。

また、カスハラへの対応力が高まることで、従業員の自信にもつながります。適切な対応スキルを身につけることで、顧客対応の質が向上し、結果として顧客満足度の向上にも寄与するという好循環を生み出します。

企業イメージと顧客満足度の向上

カスハラ防止対策は、企業の社会的責任(CSR)の一環としても評価されます。「従業員を大切にする企業」というイメージは、求職者だけでなく顧客からも好感を持たれる要素となります。

具体的な効果としては、まず採用活動において「働きやすい職場」というブランドイメージが確立されることで、優秀な人材の確保に有利になります。また、適切なクレーム対応を行うことで、顧客からの信頼が高まり、満足度の向上にも寄与します。さらに、こうした取り組みはメディアや社会からの評価にもつながり、CSR活動としての認知を得ることができます。加えて、取引先に対しても、コンプライアンス意識の高い企業であることをアピールできるため、信頼関係の強化や新たなビジネスチャンスにもつながる可能性があります。

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まとめ

カスハラ防止法改正の動向と企業に求められる対応について解説してきました。2025年の法改正により、企業にはカスハラ防止対策の法的義務が課され、実効性のある取り組みが求められます。

  • カスハラ防止法は2025年に大きく改正され、企業に対策義務が課される
  • 東京都をはじめとする自治体でも独自の条例が施行される動きがある
  • 企業には方針策定、相談窓口設置、従業員教育など実効性のある対策が必要
  • 業種特性に応じたカスタマイズされた対策が効果的
  • 適切な対策は法的リスク回避だけでなく、従業員定着や企業イメージ向上にも寄与

法改正を待たずに、今から対策を始めることが重要です。自社の業種特性や組織規模に合わせた実効性のある対策を検討し、従業員と顧客の双方にとって健全な関係を構築していきましょう。

弁護士法人なかま法律事務所では、カスハラ対策に関する法的アドバイスから社内規程の整備、研修プログラムの提供まで、企業のカスハラ対応を総合的にサポートしています。特に医療機関やECサイト運営企業など、カスハラリスクの高い業種に特化したノウハウを提供し、御社の状況に応じた実効性の高い対策をご提案します。また、代表弁護士は社会保険労務士の資格も有しており、労務管理と法務の両面からの専門的なアドバイスが可能です。ぜひお気軽にご相談ください。

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