薬機法から見る化粧品広告の注意点|NG表現とその回避法をわかりやすく解説

企業法務コラム

化粧品広告を作成する際は、「薬機法」と呼ばれる法律によって広告表現に厳しい規制が設けられています。本記事では、薬機法における化粧品広告の基本ルールから、具体的なNG表現とその回避法まで、実務で活用できる知識を分かりやすく解説します。広告作成の際の具体的なチェックポイントも紹介しますので、コンプライアンスを守りながら効果的な広告展開をするために、ぜひ参考にしてください。

薬機法とは?

薬機法は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の略称です。以前は「薬事法」と呼ばれていた法律で、2014年に現在の名称に変更されました。この法律は医薬品や医療機器だけでなく、化粧品の広告表現にも適用されます。

薬機法における広告規制の主な目的は、消費者保護です。虚偽や誇大な広告によって消費者に誤解を招くことを防ぐための規制となっています。薬機法違反の広告は最大2年以下の懲役または200万円以下の罰金という厳しい罰則が設けられているため、広告作成者は十分な知識を持つ必要があります。

化粧品の定義と広告規制の対象範囲

薬機法では、化粧品を「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、または皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なもの」と定義しています。

具体的には、基礎化粧品(クリーム、乳液、化粧水など)、メイクアップ化粧品(ファンデーション、口紅など)、ヘアケア製品(シャンプー、リンスなど)、ボディケア製品(ボディソープ、入浴剤など)が含まれます。これらの化粧品の広告は、すべて薬機法の規制対象となります。

医薬部外品は、化粧品と混同されやすいですが「人体に対する作用が緩和なものであって、厚生労働大臣が指定するもの」と定義され、化粧品より効能効果の表現範囲が広くなっています。例えば「にきびを防ぐ」「美白する」といった表現は医薬部外品では可能ですが、一般の化粧品では使用できません。

広告の定義も幅広く、パッケージや商品説明書はもちろん、ウェブサイト、SNS投稿、動画広告、インフルエンサーマーケティング、店頭POPなど、あらゆる媒体での表現が対象です。特に注意すべきは、インフルエンサーが個人的感想として投稿したものでも、商品提供元が関与している場合は広告と見なされ、規制対象となる点です。

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化粧品広告で注意が必要な表現

薬機法では、化粧品広告において特定の表現を禁止しています。ここでは、注意が必要な表現とその具体例を詳しく解説します。

虚偽・誇大広告の禁止

薬機法では、製品の効果や性能について事実に反する表現や、実際よりも著しく優良であると誤認させるような表現を禁止しています。化粧品の効果は個人差があり、絶対的な効果を保証することはできません。

例えば、「シワが消える」「たった1週間で肌が生まれ変わる」「使えば必ず美白になれる」といった表現は、実際の効果を超えた誇大表現に当たります。また、「最高級成分配合」「世界最先端技術」「特別な家伝秘法による製法」など、根拠のない優位性を主張する表現も避けるべきです。

特に「絶対」「確実」「必ず」などの断定的な表現は薬機法違反のリスクが高いため、使用を控えましょう。製品の効果は、あくまでも個人の使用感や印象として伝えることが重要です。

医薬品的な効能効果の表現禁止

化粧品は医薬品ではないため、疾病の治療や予防に関する効能を謳うことはできません。化粧品に認められている効能効果は、厚生労働省によって56種類に限定されています。

例えば、「アトピーに効く」「ニキビを治す」「アレルギーを抑える」といった疾病治療に関する表現や、「シミを消す」「たるみを改善する」といった医学的な効果を連想させる表現は禁止されています。

また、「美白」という言葉は使用できますが、「美白」とは「日焼けによる黒色化を防ぐ」という意味に限られ、「シミを薄くする」という意味では使用できません。シミ対策をアピールしたい場合は、医薬部外品としての承認を受ける必要があります。

安全性の保証に関する禁止表現

「絶対安全」「副作用なし」「刺激ゼロ」といった安全性を断定的に保証する表現も禁止されています。すべての人に対して絶対的な安全を保証することはできないためです。

「無添加」「ナチュラル」「オーガニック」といった表現も、根拠なく使用すると誤認を招くおそれがあります。例えば「無添加」と表示する場合、何が添加されていないのかを明確にする必要があります。

安全性に関する表現は、客観的な事実に基づいた表現に限定し、過度な安全性アピールは避けることが重要です。例えば「パッチテスト済み(すべての方に刺激が起きないわけではありません)」というように、限定的な表現にとどめましょう。

成分の効果に誤解を招く表現

化粧品に配合されている成分の効果について医学的な効能を謳うことも禁止されています。例えば「コラーゲンで肌を再生」「ヒアルロン酸がシワを消す」といった表現は不適切です。

成分名を出す場合は、その成分が化粧品においてどのような役割を持つのかを正確に伝える必要があります。例えば「コラーゲン(保湿成分)配合」というように、その成分の化粧品における機能を明確に示すことが大切です。

また、実際には配合されていない成分の効果を暗示するような表現も禁止されています。成分の効果をアピールする場合は、科学的根拠に基づいた客観的な説明を心がけ、効果の断定は避けるようにしましょう。

医師や専門家による推薦・保証

「医師推薦」「皮膚科医が開発」「専門家絶賛」「〇〇医師監修」といった表現も薬機法違反のリスクがあります。これらの表現は、医学的な権威に基づいて製品の効果や安全性を保証するものと受け取られかねません。

特に、医師や薬剤師など医療関係者による推薦は、医学的・薬学的な根拠があるように消費者に誤認させる恐れがあります。たとえ実際にそのような推薦があったとしても、広告での使用は避けましょう。

専門家の関与を示したい場合は、「皮膚科医との共同研究により開発した成分を配合」など、具体的かつ客観的な事実に基づいた表現にとどめることが重要です。

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薬機法に違反しない化粧品広告の表現方法

薬機法に違反しないためには、NG表現を避け、適切な表現方法を身につけることが重要です。ここでは、薬機法に違反せずに効果的に商品の魅力を伝える方法を解説します。

効能効果の適切な表現方法

化粧品の効能効果を訴求する際は、厚生労働省が認めている56種類の効能効果の範囲内で表現することが基本です。例えば「肌を整える」「肌に潤いを与える」「肌を引き締める」「皮膚を保護する」などの表現が認められています。

医薬品的な効能効果を連想させる表現を避けるためには、使用感や印象を中心にアピールするのが効果的です。例えば「シワが消える」という表現の代わりに「ハリとうるおいを与え、キメの整った印象に」とすると、使用後の印象を表現することができます。

成分効果の適切な表現方法

成分の効果をアピールする際は、医学的な効能を直接結びつけるような表現は避け、その成分が化粧品においてどのような役割を持つのかを説明するようにしましょう。

例えば「コラーゲンでシワを改善」という表現の代わりに「コラーゲン(保湿成分)配合で、うるおいのある肌へ」というように、その成分の化粧品における機能を明確にしましょう。また「ビタミンCが肌のくすみを消す」という表現の代わりに「ビタミンC誘導体(整肌成分)配合で、透明感のある肌へ」という表現が適切です。

成分の配合量や特徴について触れる場合も、客観的な事実に基づいた表現を心がけましょう。例えば「高配合」という表現は、同じシリーズの他商品や旧製品と比較して明らかに多い場合など、根拠がある場合に限定して使用しましょう。

使用感や印象を活かした表現方法

化粧品広告において、製品の使用感や印象をアピールすることは薬機法の観点からも安全な方法です。使用感や印象は個人の主観的な体験に基づくものであり、効能効果の保証にはならないためです。

例えば「肌がもっちりする感触」「つけた瞬間にひんやりとした使用感」「さらっとした付け心地」「みずみずしいテクスチャー」などの表現は、使用感を伝えるものとして適切です。

また、「透明感のある肌に導く」「ツヤのある肌印象へ」「なめらかな質感に整える」といった表現も、結果を保証するものではなく、目指す肌の印象を伝える表現として適切です。使用感や印象を伝える際は、五感に訴えかける表現を活用すると効果的です。

ビフォーアフター写真の使用に関する注意点

ビフォーアフター写真を使用する際は、特に注意が必要です。なぜなら、これらの写真は製品の効果を視覚的に保証するものと受け取られる可能性があるからです。

例えば、「シミが薄くなった」「シワが減った」というような効果を示すビフォーアフター写真は、医薬品的な効能効果を示唆するため避けるべきです。また、写真を加工して効果を誇張することも明らかな虚偽広告となります。

使用感の変化を示す写真、例えば「保湿効果でうるおいを与えた様子」などを表現する場合も、「イメージです」「個人の感想です」というような注釈を必ず付けましょう。

クリニック・エステサロンでの広告に関する注意点

美容クリニックやエステサロンでは、医療行為と化粧品の効果を明確に区別することが重要です。医師による治療と化粧品によるケアを混同させるような表現は避けるべきです。

例えば、「当院の治療と併用することで効果が上がる化粧品」といった表現は、化粧品に医療的効果があるという誤解を与える可能性があります。代わりに「治療後のお肌をやさしく整えるためのスキンケア」「日常のケアをサポートする化粧品」といった表現が適切です。

また、クリニック発の化粧品であっても「医師が開発した」「医学的根拠に基づく」といった表現は、医薬品的効能を暗示する恐れがあるため注意が必要です。「肌の研究に基づいた処方」「お肌のことを考えた成分選び」といった表現に留めましょう。

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媒体別の薬機法対応ポイント

薬機法の規制は、あらゆる広告媒体に適用されますが、各媒体の特性に合わせた対応が必要です。ここでは、主な広告媒体別の対応ポイントを解説します。

ウェブサイト・ECサイトでの注意点

ウェブサイトやECサイトは情報量が多く、様々な表現を用いることができる媒体です。一方で、薬機法違反のリスクも高まります。

商品説明ページでは、製品の特徴や使い方を詳しく説明することができますが、効能効果の表現には十分な注意が必要です。特に製品名やキャッチコピー、商品説明文、FAQ、使用方法などすべてのコンテンツが規制対象となります。

また、ユーザーレビューも規制対象です。ECサイト運営者は、掲載されているレビューが薬機法に違反していないかチェックする責任があります。効能効果を誇張したレビューは、たとえそれが実際のユーザーの声であっても、そのまま掲載することは避けましょう。

さらに、商品紹介ページへの誘導文やバナー広告なども広告の一部と見なされるため、これらにも薬機法の規制が適用されます。医薬品的な効能効果を連想させるようなキャッチコピーや画像の使用は避けましょう。

SNSマーケティングでの注意点

SNSでの広告やマーケティングも薬機法の対象となります。企業の公式アカウントからの投稿はもちろん、インフルエンサーに依頼して行うPR投稿も広告と見なされます。

SNSでの投稿は短文であることが多いため、表現が過度に簡略化され、誤解を招きやすいというリスクがあります。また、カジュアルな表現が多用されるため、知らず知らずのうちに薬機法違反の表現を使ってしまうことに注意が必要です。

インフルエンサーマーケティングを行う場合は、インフルエンサーに薬機法について十分に説明し、投稿内容を事前にチェックする体制を整えることが重要です。「個人の感想です」という注釈を付けたとしても、企業が関与している場合は広告と見なされるため、薬機法の規制が適用されます。

SNS広告では、製品の使用感や質感、香りなどの主観的な感想を中心にアピールし、効能効果に関する断定的な表現は避けるようにしましょう。

店頭POPや製品パッケージでの注意点

店頭POP、製品パッケージ、チラシなどの販促物も薬機法の規制対象です。これらは限られたスペースに情報を詰め込む必要があるため、表現が簡略化され、誤解を招きやすいというリスクがあります。

製品パッケージでは、製品名、キャッチコピー、説明文、使用方法、注意事項など、すべての記載事項が規制対象となります。特に目立つ位置に表示されるキャッチコピーや製品名には、医薬品的な効能効果を連想させる表現を使用しないよう注意が必要です。

店頭POPやチラシも同様で、視認性を高めるために大きくインパクトのある表現を使いたくなりますが、薬機法に違反しないよう注意が必要です。限られたスペースでも、使用感や印象を中心とした表現を使用しましょう。

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薬機法対応のための社内体制構築

薬機法違反を防ぐためには、個々の表現に注意するだけでなく、組織全体で薬機法を遵守する体制を整えることが重要です。ここでは、企業が薬機法に対応するための社内体制の構築方法について解説します。

広告チェック体制の構築

薬機法違反を防ぐためには、広告物を公開する前に適切にチェックする体制を整えることが不可欠です。特に化粧品メーカーやECサイト運営者、クリニックなどは、専門的な知識を持った担当者による確認プロセスを確立しましょう。

チェック体制の基本は、複数の目による確認です。広告制作担当者のセルフチェックだけでなく、法務部門や薬事部門など専門知識を持った部署による二次チェック、さらに必要に応じて外部の専門家(弁護士や薬事法務の専門家など)による最終確認を行うことが理想的です。

また、チェックリストやガイドラインを作成し、組織内で共有することで、チェックの質を均一化することも有効です。チェックリストには、薬機法で禁止されている表現例と、それを言い換えた適切な表現例を記載しておくと実用的です。

マーケティング担当者への教育研修

薬機法違反を防ぐためには、広告やマーケティングに関わる全ての担当者が基本的な知識を持つことが重要です。定期的な教育研修を実施し、薬機法の基本的な考え方や具体的なNG表現、適切な表現方法などを共有しましょう。

研修では、単に規制内容を伝えるだけでなく、なぜその規制があるのか(消費者保護の観点)を理解してもらうことが大切です。また、過去の違反事例や行政指導事例を紹介することで、より具体的な理解を促すことができます。

さらに、業界団体や専門機関が主催する外部セミナーへの参加も有効です。特に薬機法は改正されることもあるため、最新の規制動向を把握するためにも、定期的なアップデートが必要です。

広告審査のためのガイドライン策定

社内での広告審査をスムーズに行うためには、明確なガイドラインを策定することが効果的です。ガイドラインには、薬機法の基本的な考え方や具体的なNG表現、適切な表現方法などを詳細に記載します。

特に重要なのは、自社製品特有の注意点を明記することです。例えば、配合成分の特性に応じた表現上の注意点や、過去に指摘を受けた表現などを具体的に記載しておくと実用的です。

ガイドラインを定期的に更新し、新しい事例や規制動向を反映させることも重要です。業界団体のガイドラインや、消費者庁・厚生労働省の発表する事例集なども参考にしながら、自社のガイドラインをブラッシュアップしていきましょう。

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薬機法違反のリスクと対処法

薬機法に違反した場合、どのようなリスクがあり、また万が一違反してしまった場合にはどう対処すべきでしょうか。ここでは、薬機法違反のリスクと具体的な対処法について解説します。

違反した場合の行政処分と罰則

薬機法に違反した広告を行った場合、様々な行政処分や罰則が科される可能性があります。まず最も一般的なのは、行政からの改善指導です。これは比較的軽微な違反の場合に行われ、違反内容の改善を求められます。

改善指導に従わない場合や、違反が重大な場合には、行政命令(業務改善命令、業務停止命令など)が出されることもあります。特に悪質な違反の場合には、刑事罰として最大2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される可能性もあります。

行政処分や罰則だけでなく、違反が公表されることによる企業イメージの低下も大きなリスクです。消費者からの信頼を失い、長期的な企業価値の低下につながる可能性もあります。

また、虚偽・誇大広告によって消費者に損害を与えた場合には、民事上の責任(損害賠償責任など)が問われる可能性もあります。このように、薬機法違反には多面的なリスクがあることを認識しておきましょう。

指摘を受けた際の適切な対応手順

行政機関から薬機法違反の指摘を受けた場合、迅速かつ適切に対応することが重要です。まず、指摘内容を正確に理解し、該当する広告の修正または削除を直ちに行いましょう。

次に、指摘を受けた原因を分析し、社内の広告審査体制やガイドラインの見直しを行います。同様の違反が他の広告でも行われていないか総点検することも重要です。

行政機関とのコミュニケーションも重要です。改善報告書の提出など、求められる対応には誠実に応じましょう。また、再発防止策を具体的に示し、企業としての姿勢をアピールすることも大切です。

消費者に対しても、必要に応じて適切な情報提供を行いましょう。例えば、誤解を招く広告を行っていた場合は、正確な情報を提供し、誤解を解くための対応を検討すべきです。

専門家への相談と定期的な広告監査

薬機法は複雑で解釈が難しい部分もあるため、専門家に相談することも検討しましょう。薬事法務の専門家や、薬機法広告に詳しい弁護士などに定期的に相談し、自社の広告表現が適切かどうかチェックしてもらうことをおすすめします。

業界の動向や他社の違反事例なども定期的にチェックし、自社の広告に反映させることが重要です。他社の違反事例から学ぶことで、同様のミスを避けることができます。

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まとめ

本記事では、薬機法から見た化粧品広告の注意点について詳しく解説してきました。薬機法は化粧品の広告表現に厳しい規制を設けており、違反した場合には行政処分や罰則のリスクがあります。効果的な化粧品広告を作成しながらも薬機法に違反しないためには、禁止されている表現を避け、適切な表現方法を身につけることが重要です。

  • 化粧品広告では医薬品的な効能効果を謳うことはできない
  • 絶対的・断定的な表現や、根拠のない優位性の主張は避ける
  • 使用感や印象、五感に訴える表現を中心にアピールする
  • 複数の目による広告チェック体制の構築が重要
  • 専門家への相談や定期的な広告監査を実施する

薬機法を正しく理解し、コンプライアンスを守りながらも効果的なマーケティングを行うことで、消費者からの信頼を獲得し、長期的な企業価値の向上につなげることができます。薬機法に関する不安や疑問がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。

弁護士法人なかま法律事務所では、化粧品広告の薬機法対応に関する相談を承っております。当事務所では企業法務に強い弁護士が多数在籍しており、薬機法に関する専門的なアドバイスを提供しています。特に美容・化粧品業界のクライアントも多く、業界特有の課題や最新の規制動向にも精通しています。広告審査体制の構築から、個別の広告表現のチェック、違反時の対応まで、幅広くサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。

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