インターネット広告やSNSマーケティングが普及した現代では、広告表現の法令順守がこれまで以上に求められています。特に景品表示法(景表法)で規制される「優良誤認」と「有利誤認」は、ECサイトやクリニックのウェブサイトでよく発生する違反事例です。この記事では、優良誤認と有利誤認の違いについて解説し、事業者が広告制作時に注意すべきポイントを具体例とともに紹介します。適切な広告表現の知識を身につけ、景表法違反によるリスクを回避しましょう。
景品表示法における優良誤認と有利誤認の基本概念
景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)は、消費者が商品やサービスを選ぶ際の判断を守るための法律です。この法律では、消費者に誤った認識を与える「不当表示」が禁止されています。不当表示には主に「優良誤認表示」と「有利誤認表示」の2つの類型があります。
優良誤認表示とは
優良誤認表示は、景表法第5条第1号に規定されています。これは商品やサービスの「品質」「規格」「その他の内容」について、実際のものより著しく優良であると一般消費者に誤認させる表示を指します。例えば、クリニックが「完全無痛治療」と広告しながら、実際には痛みを伴う処置を行っている場合などが該当します。
商品・サービスの本質的な性能や効果に関する誇大表現が優良誤認にあたるため、特に美容クリニックやサプリメント等の健康関連商品を扱う事業では注意が必要です。
有利誤認表示とは
有利誤認表示は、景表法第5条第2号に規定されています。これは商品やサービスの「価格」や「取引条件」について、実際のものより著しく有利であると一般消費者に誤認させる表示を指します。例えば、「通常価格10,000円のところ、今だけ5,000円!」と表示しながら、実際には常に5,000円で販売している場合などが該当します。
価格や購入条件に関する不正確な表現が有利誤認となるため、料金表示やセール告知において特に慎重に対応する必要があります。
優良誤認と有利誤認の違い
優良誤認と有利誤認は、景表法上の不当表示として並び称されますが、その内容や規制対象には明確な違いがあります。ここでは両者の違いを具体的に比較していきます。
対象となる表示内容の違い
最も基本的な違いは、表示内容の対象です。優良誤認は商品やサービスそのものの「品質」「規格」「内容」に関する表示が対象となります。例えば、美容クリニックが「FDA認証済みの最新医療機器使用」と広告しながら実際には認証を受けていない機器を使用している場合などが該当します。
一方、有利誤認は「価格」「数量」「アフターサービス」などの取引条件に関する表示が対象です。例えば、「業界最安値保証」と謳いながら、実際には他社より高い価格設定をしている場合などが該当します。
商品・サービスの「何について」誤解させるかが両者を区別する重要なポイントとなります。内容に関する誤認なら優良誤認、取引条件に関する誤認なら有利誤認です。
法的根拠の違い
両者は景品表示法の異なる条項に規定されています。優良誤認は第5条第1号、有利誤認は第5条第2号に規定されています。しかし、罰則については両者に違いはなく、景表法違反として措置命令や課徴金納付命令の対象となります。
2016年からは課徴金制度が導入され、違反行為による売上高の3%が課徴金として課されることになりました。また、違反が公表されることによる社会的信用の失墜も大きな問題です。
違反の内容に関わらず、企業にとって景表法違反は重大なリスクであり、いずれの場合も慎重な広告表現の検討が必要です。
優良誤認に該当する広告表現と事例
優良誤認表示は商品やサービスの品質や効果について誤解を招く表現です。ここでは、具体的にどのような表現が優良誤認に該当するのか、実際の事例を交えて解説します。
商品の効果・性能に関する誇大表現
商品の効果や性能を実際以上に良く見せる表現は、優良誤認の典型例です。例えば、美容クリームの広告で「シワが一晩で消える」と表示するのに、実際には長期間使用しても顕著な効果が見られない場合が該当します。
他にも、医療クリニックでよく見られる問題として、「痛みゼロの治療」「100%の治療成功率」といった絶対的な表現があります。医療行為には個人差があり、すべての患者に同じ結果を保証することはできないため、断定的な効果表現は優良誤認となるリスクが非常に高いです。
原材料・成分に関する誤認表示
商品の原材料や成分に関する表示も、優良誤認の対象となりやすい部分です。例えば、「オーガニック100%」と表示しているのに、一部の成分が有機認証を受けていない場合や、「国産素材使用」と表示しているのに、主要原料の一部が輸入品である場合などが該当します。
化粧品やサプリメントに関して、「無添加」「天然成分のみ」といった表現が用いられることが多いですが、これらの表現には明確な定義がなく、消費者によって解釈が異なる可能性があります。原材料や成分に関する表示は正確かつ具体的である必要があるため、あいまいな表現は避けるべきです。
認証・推奨等に関する虚偽表示
第三者機関からの認証や専門家からの推奨を偽って表示することも、優良誤認となります。例えば、「〇〇学会推奨」と表示しているのに、実際にはその学会から正式な推奨を受けていない場合や、存在しない認証マークを表示するケースが該当します。
医療クリニックでは、「〇〇医学会認定医院」「専門医が担当」といった表現が使われることがありますが、これらは事実に基づいた表示でなければなりません。権威ある第三者からの認証や推奨は消費者の信頼を大きく左右するため、虚偽の表示は重大な違反となります。
有利誤認に該当する広告表現と事例
有利誤認表示は、価格や取引条件について消費者に誤解を与える表現です。以下では、有利誤認に該当しやすい広告表現と具体的な事例を紹介します。
二重価格表示
二重価格表示とは、「通常価格」と「セール価格」のように2つの価格を並べて表示する方法です。この表示方法自体は禁止されていませんが、比較対象となる「通常価格」が実態を反映していない場合に有利誤認となります。
例えば、「通常価格10,000円のところ、今だけ5,000円」と表示しているのに、実際には一度も10,000円で販売したことがなかったり、ごく短期間だけ10,000円で販売した後、すぐにセール価格にしたりするケースが該当します。二重価格表示を行う場合は、比較対象となる価格の実績が確保されていることが重要です。
「無料」「割引」等の表現
「無料」「割引」といった表現も、条件が明確でなかったり、実質的に無料・割引になっていなかったりする場合は有利誤認となります。例えば、「送料無料」と大きく表示しているのに、実際には一定金額以上の購入が条件だったり、特定地域では送料がかかったりする場合が該当します。
よく見られる例としては、「初回無料」と表示しながら、実際には定期購入が条件となっており、解約に厳しい条件が設けられているようなケースがあります。「無料」や「割引」の条件は、消費者が容易に理解できるよう明確に表示する必要があることに留意しましょう。
ポイント還元・特典に関する誤解を招く表現
ポイント還元や特典についても、実態と異なる表示は有利誤認となります。例えば、「ポイント10倍還元」と表示しているのに、実際には特定商品にのみ適用される場合や、還元率の計算方法が一般的な理解と異なる場合などが該当します。
「全品ポイント5倍」と表示しながら、実際には一部の商品が対象外だったり、ポイントの有効期限が極端に短かったりするケースもあります。ポイントや特典の内容・条件は具体的かつ正確に表示し、消費者の誤解を招かないよう配慮しましょう。
優良誤認・有利誤認を避けるための広告表現のポイント
景品表示法違反を防ぐためには、広告表現を作成する際の具体的なポイントを押さえることが重要です。ここでは実践的なアドバイスをご紹介します。
根拠資料の重要性と収集方法
広告表現の根拠となる資料は、景表法違反の指摘を受けた際に企業側が自らの正当性を証明するための重要な証拠となります。特に「最高」「No.1」「最安値」などの最上級表現や比較表現を使用する場合は、客観的な根拠資料が必須です。
根拠資料としては、第三者機関による調査結果、公的機関の認証、学術論文、比較可能な市場データなどが有効です。例えば、「満足度95%」と表示する場合は、適切な調査手法による顧客アンケート結果が必要です。
広告表現の前に根拠資料を収集・検証し、根拠なき表現は避けましょう。根拠資料は最低3年間保管することが推奨されています。
比較広告を行う際の注意点
自社製品やサービスを他社と比較する広告は効果的ですが、景表法違反のリスクも高まります。比較広告を行う際は、以下の点に注意が必要です。
まず、比較対象を明確にすることが重要です。「他社製品より効果的」という曖昧な表現ではなく、具体的にどの製品と比較しているのかを明示しましょう。比較項目も客観的かつ重要な要素に基づくべきで、自社に有利な項目だけを選んで比較することは避けるべきです。
また、比較データは最新かつ公平な方法で収集されたものを使用し、比較方法も明確に説明する必要があります。例えば、「業界最速配送」を謳う場合、比較対象企業、計測方法、測定期間などを明示すべきです。
比較広告では公正かつ客観的な比較と明確な根拠の提示が不可欠です。消費者庁は比較広告に関するガイドラインも公表しているため、それに従った表現が求められます。
免責事項・注釈の適切な表示方法
広告の本文だけでは伝えきれない条件や制限事項は、免責事項や注釈として表示することがありますが、その表示方法にも注意が必要です。
まず、注釈は本文と同じページに表示し、読者が容易に認識できる場所に配置しましょう。小さすぎる文字サイズや目立たない色で表示することは避け、本文と比較して著しく小さくならないよう配慮が必要です。
また、注釈の内容が本文の主張を実質的に否定するようなものであってはなりません。例えば、「全商品送料無料」と大きく表示しながら、注釈で「一部商品・地域を除く」と記載するような表現は問題となります。
注釈は補足説明であり、広告の本質的な内容を変えるものであってはならないという点を理解し、誤解を招かない表示方法を心がけましょう。
言葉選びのポイント
広告表現における言葉選びは、景表法違反を避ける上で非常に重要です。以下の表現には特に注意が必要です。
- 「絶対」「完全」「100%」などの断定的表現
- 「永久」「一生」などの永続性を示す表現
- 「最高」「最大」「No.1」などの最上級表現
- 「奇跡」「驚異的」などの非科学的な表現
- 「業界初」「唯一」などの独自性を強調する表現
これらの表現を使用する場合は、客観的な根拠が必要です。「当社調べ」と添えるだけでは不十分で、調査方法や対象などの詳細も明示すべきです。
曖昧さを避けるためには、具体的な数値や条件を示すことが効果的です。例えば、「短期間で効果が出る」ではなく「平均○週間で○%の方に効果が見られました」のような表現が望ましいです。
過度な期待を抱かせる表現は避け、事実に基づいた正確な表現を心がけましょう
景品表示法違反が発覚した場合の対応と罰則
景表法違反が発覚した場合、企業にはどのような対応が求められ、どのような罰則が科されるのでしょうか。実際の流れと対策を解説します。
違反発覚時の対応方法
景表法違反が発覚した場合は、以下のような流れで対応するのが一般的です。
まず、消費者庁や都道府県から調査や報告要請があった場合は、問題となる広告表現の使用をすぐに停止し、ウェブサイトや印刷物から削除するなど迅速な対応が求められます。
また、社内調査を実施し、違反の原因や範囲を特定することも重要です。調査結果に基づき、再発防止策を策定し、社内教育や広告審査体制の見直しを行いましょう。
違反発覚時は迅速かつ誠実な対応と透明性のある情報開示が信頼回復の鍵となります。法的対応だけでなく、消費者からの信頼回復に向けた取り組みも重要です。
措置命令と課徴金制度
景表法違反が認められると、消費者庁から措置命令が出されることがあります。措置命令には、違反行為の差止め、再発防止策の実施、一般消費者への周知徹底などが含まれます。
2016年4月からは課徴金制度も導入され、優良誤認や有利誤認などの不当表示を行った事業者に対して、対象商品・サービスの売上高の3%が課徴金として課されることになりました。ただし、事業者が自主的に違反行為を申告した場合や、速やかに是正措置を講じた場合には、課徴金が減額されることもあります。
例えば、年商10億円の企業が6か月間にわたって不当表示を行った場合、その期間の売上が3億円だとすると、課徴金額は900万円(3億円×3%)となる可能性があります。
課徴金は売上高に比例するため、大企業ほど高額になる可能性があります。
企業のブランドイメージへの影響
景表法違反が公表されると、企業のブランドイメージに大きな影響を与えます。特にSNSやインターネットが発達した現代では、違反情報が瞬時に拡散し、長期間にわたって企業イメージが損なわれる可能性があります。
消費者の信頼を回復するためには、単に法的対応を行うだけでなく、より透明性の高い広告活動や情報開示、消費者目線に立った企業活動が求められます。また、違反発覚後の誠実な対応や再発防止への取り組みを積極的に発信することも重要です。
景表法違反による信頼喪失のコストは、罰金や是正費用をはるかに上回ることを認識し、コンプライアンス重視の企業文化を醸成することが重要です。
景品表示法違反を防ぐための社内体制の構築
景表法違反を未然に防ぐためには、適切な社内体制の構築が不可欠です。ここでは具体的な対策について解説します。
広告審査体制の整備
景表法違反を防ぐための第一歩は、効果的な広告審査体制の整備です。まず、広告表現のチェックリストを作成し、優良誤認や有利誤認のリスクがある表現を事前に特定できるようにしましょう。例えば、チェックリストには「最上級表現が使われていないか」「価格表示に誤解を招く要素はないか」といった項目を含めます。
次に、広告審査の責任者を明確にし、マーケティング部門だけでなく、法務部門や品質管理部門など複数の視点からチェックする体制を構築することが重要です。特に医療クリニックやECサイトでは、専門知識を持つスタッフを審査に加えることが望ましいでしょう。
また、広告審査のタイミングも重要です。企画段階、制作段階、公開直前など、複数のタイミングでチェックする多層的な審査体制が効果的です。
広告表現の審査は営業部門から独立した客観的な立場で行うことが重要であり、売上目標と法令遵守のバランスを適切に保つ必要があります。
社員教育の実施
景表法違反を防ぐためには、広告に関わる全ての社員が景表法の基本的な知識を持つことが重要です。定期的な研修やeラーニングを通じて、景表法の基本原則や具体的な違反事例について学ぶ機会を設けましょう。
特に新入社員や新規入社者には、入社時や配属時に基礎知識を提供することが大切です。また、マーケティング部門や広告制作部門、カスタマーサービス部門など、消費者と接点のある部門には、より詳細な教育プログラムを提供すべきです。
教育内容としては、景表法の基本的な考え方だけでなく、自社や業界特有のリスクポイント、過去の違反事例の分析、具体的な広告表現の改善例なども含めると効果的です。例えば、ECサイトであれば価格表示の事例、美容クリニックであれば効果表現の事例など、業種に特化した内容を取り入れましょう。
定期的な事例研究や最新の法規制動向の共有が継続的なコンプライアンス意識の醸成に役立つため、単発の研修ではなく継続的な教育プログラムの実施が望ましいです。
モニタリングと定期的な見直し
広告表現の適法性を維持するためには、継続的なモニタリングと定期的な見直しが必要です。競合他社の動向や消費者庁の最新の措置命令事例、裁判例などを定期的にチェックし、自社の広告表現に反映させる仕組みを構築しましょう。
また、自社の広告について定期的な自主点検を行うことも重要です。例えば、四半期ごとにウェブサイトや広告物をチェックし、問題のある表現がないか確認する習慣をつけましょう。特に長期間掲載している広告は、作成時と現在の状況が変わっている可能性があるため、注意が必要です。
消費者からのクレームや問い合わせも、広告表現の改善に役立つ貴重な情報源です。「広告と実際が違う」といった声があれば、早急に調査し、必要に応じて修正を行いましょう。
景表法対応は一度で完結するものではなく、継続的な改善活動として取り組むことが重要です。市場環境や法解釈の変化に対応し、常に最新の状態を維持する意識が必要です。
専門家との連携
景表法は解釈が難しい場合も多いため、専門家との連携が有効です。まず、景表法に詳しい弁護士との顧問契約を結び、定期的に広告表現のチェックを受けることをお勧めします。特に新しい広告キャンペーンや大規模なプロモーションを行う前には、専門家の意見を仰ぐことが重要です。
また、業界団体や消費者庁が提供する相談窓口を活用することも効果的です。不明点があれば事前に相談することで、リスクを低減できます。特に医療広告のように専門性の高い分野では、業界特有のガイドラインにも精通した専門家の助言が不可欠です。
社内に法務担当者がいる場合でも、定期的に外部の専門家による研修やレビューを受けることで、客観的な視点を取り入れることができます。
グレーゾーンの判断には専門家の意見を仰ぐことで安全な判断が可能になるため、広告審査体制に専門家の視点を組み込むことは重要な予防策となります。
まとめ
本記事では、景品表示法における優良誤認と有利誤認の違いから、具体的な違反事例、そして防止策まで幅広く解説してきました。景表法違反は企業の信頼を大きく損なうリスクがあるため、適切な対策が不可欠です。
- 優良誤認は商品・サービスの品質や内容に関する誤解を招く表示のこと
- 有利誤認は価格や取引条件に関する誤解を招く表示のこと
- 広告表現においては客観的根拠に基づいた正確な表現・情報提供が必要
- 景表法違反には課徴金や信用失墜など重大なリスクを伴う
- 社内体制構築と専門家との連携が景表法違反防止に有効
景表法違反を防ぐためには、広告表現の適法性を常に意識し、客観的な根拠に基づいた正確な情報提供を心がけることが重要です。弁護士法人なかま法律事務所では、景品表示法に関する相談から広告審査体制の構築まで、企業のコンプライアンス体制強化をサポートしています。特に医療機関やECサイト運営者向けに、業種特有の景表法リスクを踏まえた実践的なアドバイスを提供しておりますので、広告表現に不安がある場合はお気軽にご相談ください。