獣医師向け|動物病院の開業を検討されている獣医師様へ

獣医師として独立開業することのメリット・デメリット

自身の思い描く医院の運営

勤務医の場合,どうしても雇われている病院の診療方針や運営方針に従って働かないといけません。もしかしたら,自分がベストと考える治療方法があるのに,院長に止められる,ということもあるかもしれません。

しかし,独立開業すれば,こういう治療方針でやりたい,こんな獣医師やスタッフと仕事がしたい,こういう病院にしていきたい,自分の思い描く理想の動物病院を作ることができます。

働きやすい環境の構築

動物病院の中には,夜間診療,緊急対応で長時間労働が常態化していたり,パワハラ・セクハラが頻発していたり,雇用契約書がなかったり,就業規則がなかったり,残業代が支給されていなかったり,就労環境が整っていないところが少なくありません。

勤務医の立場だと,環境改善のためにできることは限られます。自分がハラスメントの被害者になったり,残業代が支給されないなど不利益を被ることもあり得ます。

しかし,独立開業すれば,自由が得られ,人間関係のストレスから解放され,自分が思い描く獣医療が提供できます。自分が働きやすいと思う環境を構築できるということは,獣医師が独立開業するメリットと言えるでしょう。

金銭的負担・責任が大きい

他方,独立開業のデメリットとしては,やはり開業資金がかかること,院長としての責任が発生することでしょう。動物病院経営も事業ですから,以下でお話するような,事業計画,立地選定,設備投資資金の調達,集患戦略,スタッフの確保等,計画的に進めていくことが大事です。

動物病院を開業するための流れ・手順

事業計画の策定

事業計画を策定し,事業計画書を作成しましょう。事業計画書では,例えば,改行する場所をどうするのか,その場所で開業した場合の集患はどの程度見込めるのか,患者一人当たりの単価はどの程度か,設備投資はどの程度必要か,開業後の人件費,固定費はどの程度か,損益分岐点売上高はいくらかといった「収支計画」,犬猫だけを診療するのか,鳥や小動物,エキゾチックアニマルも扱うのか,夜間診療も行うのか・・といった「経営戦略」等々,事業内容の詳細を整理して,それに必要な資金計画を立案します。ざっくり5年程度の事業シミュレーションを行い,必要な資金とその回収方法・期間を計算します。

事業計画書は開業資金の融資を受ける際は必ず必要になります。税理士任せではなく,自分でお金の流れ,事業計画をちゃんと把握するようにしておきましょう。

動物病院設立に向けた立地・設備等の整備

動物病院開業の際は,専門業者に診療圏調査の依頼をしましょう。一般企業で言う市場調査のようなものです。診療圏調査を踏まえて,立地を絞り込みましょう。

立地が決まれば,病院の建築或いは内装工事をしないといけませんので設計事務所や施工業者を選定します。その際は,かかる費用だけでなく,動物病院の設計・内装の実績がある業者を選定しておくと安心でしょう。

並行して,医療設備や医療機器の選定・購入をする必要があります。ご自身だけでなくスタッフも使う,日々の診療に必要なものですので,予算の中で,使いやすいものをしっかり選んでおきましょう。

各種届出

動物病院を開業するためには,各行政機関に必要な届出を行う必要があります。

【家畜保健衛生所】

「診療開設届」:開業から10日以内に提出しなければなりません。

【税務署】

「開業届出書」:開業から1か月以内

「青色申告承認申請書」:開業から2カ月以内

「給与支払事務所等の開設届」:従業員を雇用するとき。1か月以内

その他棚卸資産の評価方法の届出書,減価償却資産の評価方法の届出書等様々提出することがあります。また,法人を設立する際は,法人設立届出書を提出する必要があります。

【各都道府県税事務所】

「開業開始等申告書」:各都道府県で定める日まで

上記以外に,労働保険関係の届出も必要です。詳細記載すると長くなってしまうので,年金事務所,ハローワーク,労働基準監督署に確認していただけたらと思います。

集患に向けたPR/集患後の体制整備

診療圏調査・立地の選定をふまえ,当該エリアにおける集患戦略を立てましょう。

動物病院の場合,獣医療法17条等広告宣伝の法規制に留意する必要があります。以下,少し長いですが条文を引用します。

「第十七条 何人も、獣医師(獣医師以外の往診診療者等を含む。第二号を除き、以下この条において同じ。)又は診療施設の業務に関しては、次に掲げる事項を除き、その技能、療法又は経歴に関する事項を広告してはならない。
一 獣医師又は診療施設の専門科名
二 獣医師の学位又は称号
2 前項の規定にかかわらず、獣医師又は診療施設の業務に関する技能、療法又は経歴に関する事項のうち、広告しても差し支えないものとして農林水産省令で定めるものは、広告することができる。この場合において、農林水産省令で定めるところにより、その広告の方法その他の事項について必要な制限をすることができる。
3 農林水産大臣は、前項の農林水産省令を制定し、又は改廃しようとするときは、獣医事審議会の意見を聴かなければならない。」

すなわち、原則として獣医師は、獣医師又は診療施設の専門科名と獣医師の学位又は称号を除いて、「技能、療法又は経歴に関する事項」を広告することができない,とされています。

当該規制は、広告により飼育者が惑わされ、不測の損害を被ることがないようにという目的で定められています。

詳細は,別の記事でまとめておりますので,よろしければこちらをご参照ください。

弁護士が分かりやすく解説!獣医業に関する広告の制限について | 【動物病院・ペット事業者向け】ペット弁護士®による無料法律相談|弁護士法人なかま法律事務所-全国対応可能
獣医療法について 獣医療法は,飼育動物の診療施設の開設及び管理に関し必要な事項並びに獣医療を提供する体制の整備のために必要な事項を定めること等により、適切な獣医療の確保を図ることを目的とする法律です(同法1条)。 獣医療法における広告規制の

スタッフの採用・研修

動物病院経営は,獣医師だけでは成り立ちません。飼い主さんと接するスタッフ・動物看護師,勤務獣医師といったスタッフが動物病院の成長を支えています。

ご自身の動物病院の成長を支える貴重な「人財」として,スタッフの採用・研修に取り組む必要があります。

開業を検討するうえで対応しておくべきこと

各種書類の作成・整備

命あるものを扱う動物病院運営では,リスクがつきものです。したがって、動物病院運営における様々なリスクを想定して,下記のような契約書等を作っておく必要があります。

・スタッフとの雇用契約書

・就業規則

・飼い主様との間で交わす麻酔同意書

・診療契約書

・カルテ

HPに記載する内容の適法性チェック

飼い主さんは,動物病院を探すとき,ほぼ100%インターネットで検索します。そのため,病院のHPを作成することはマストと言えるでしょう。

HPの記載が上記でお伝えした広告規制に抵触しないか,飼い主さんとのトラブルを招かないような記載ができるか,など考えておく必要があります。

スタッフへのクレーム対応等の研修実施

「待ち時間が長い」,「先生の説明が足りない」,「治療を受けたけど全然よくならない」など,飼い主さんの病院に対する不満はしばしばクレームに発展します。

クレーム対応を窓口のスタッフに丸投げすることは,トラブルが深刻化するだけでなく,スタッフの離職,他の患者が離れてしまうなど大きな経営リスクに発展する可能性があります。

動物病院が組織としてクレームに対してどう対応していくか,クレーム対応研修を実施したり,クレームマニュアルを作成したり,対策を講じておくとよいでしょう。

当事務所でサポートできること

各種契約書内容の作成・チェック

一般的な契約書はもちろん、動物病院特有の契約書類の作成、チェックをすることが可能です。契約書がしっかり整備されていれば、企業経営における様々なリスクを回避することができます。

HPの広告規制チェック

インターネット経由の集客における競争率は年々激化しているため、自身の病院の強みを大々的に打ち出したいところではありますが、Webサイト、広告に記載する内容には注意する必要があります。当事務所では広告文やPR内容が広告規制に抵触しないかチェックし、違反とみなされる可能性が高い場合は代替表現をご提案させていただきます。

従業員向け研修の実施

当事務所の弁護士が従業員向けに各種院内研修を実施しております。ご要望に合わせてご用意させていただきますが、院内におけるコンプライアンス研修やクレーム対応研修を行っております。

インターネット口コミ対策の実施

飼い主さんがインターネットで動物病院を検索する際に、口コミは必ずと言っていいほどチェックされる要素の1つです。ネット上のあらゆる風評被害からお守りするために、対象となる口コミの削除や口コミの定点観測をサポートいたします。

飼い主さんとのトラブルの解決

動物病院業界において、飼い主さんからの苦情・クレームへの対応の必要性は年々高まっています。トラブル発生後の飼い主さん対応、トラブルにならないような診療契約書、手術同意書の作成までトータルでサポートいたします。

動物病院の開業における法務相談は当事務所まで

当事務所では動物病院様に特化したリーガルサービスを提供しております。

お困り事がございましたらお気軽にご相談ください。

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