はじめに
昨今の働き方改革やコロナ禍におけるテレワークの推進の動きも相まって「フレックスタイム制」を導入している企業も珍しくなくなってきていますが,
これから導入する企業様も多いことかと思います。
そこで,本記事では,フレックスタイム制を導入する際のポイントや注意点,就業規則の定め方について解説していきます。
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制の定義
フレックスタイム制とは,簡単に言うと,出社・退社時刻を各従業員が自由に決めることのできる制度のことです(労基法32条の3)。
ワークライフバランスの調和を図りつつ,従業員自らが勤務時間を決定することで効率的に働くことを可能にし,労働時間を短縮することを狙いとしています。
フレックスタイム制を導入している会社では,一般的に,1日の労働時間を「コアタイム」(必ず勤務すべき時間帯)と
「フレキシブルタイム」(出社・退社自由な時間帯)に分けていますが,
制度上は,すべての勤務時間帯をフレキシブルタイムとすることも可能です(労働基準法32条の3 労働基準法規則12条の3第2号)。
フレックスタイム制を導入する際の要件
労働基準法上,フレックスタイム制を導入するために必要な要件があります。
ア 就業規則(10人未満の事業では就業規則に準ずるもの)の定め
就業規則で,以下事項を定める必要があります。
㋐ 始業及び終業時刻
㋑ 適用労働者の範囲
㋒ 清算期間(注1)及び当該清算期間の起算日
㋓ 清算期間中の総労働時間
㋔ 1日の標準労働時間
㋕ 始業及び終業時刻について,従業員の自主的決定に委ねる旨の規定
㋖ コアタイム及びフレキシブルタイムを設ける場合は,それぞれの時間帯
イ 労使協定の定め
上記㋐から㋖に加え,「清算期間が1か月を超える場合は,協定の有効期間を労使間で協定する必要があります。
ウ (清算期間が一カ月を超える場合は)労使協定の労基署への届け出
注1)清算期間とは,フレックスタイム制において労働者が労働すべき時間を定める期間のことを言います。例えば,清算期間を1か月とする場合は,「1か月の間で平均して」1週間当たり40時間を超えない範囲で,フレックスタイム勤務を認める,といった定め方をします。清算期間内で平均して1週間当たり40時間を超えなければ,1週間或いは1日単位で法定労働時間を超えても時間外労働になりません(つまり残業代が発生しない)。
フレックスタイム制導入のポイント
フレックスタイム制を導入する際は,以下のメリットデメリットを勘案して,自社にフィットするか検討する必要があります。
メリット
- 効率的な働き方が可能となる結果,従業員のパフォーマンスが向上し,労働時間の短縮につながる(生産性の向上)
- 従業員自身が労働時間を調整できるため,ワークライフバランスがとりやすくなる結果,職場に定着しやすくなる(離職率の改善)
デメリット
- 勤務時間や勤務態度がルーズになる恐れがある
- コアタイム外で緊急性を要する業務が発生した場合の対応が難しくなる(ことがある)
フレックスタイム制導入の注意点
労使間で共通認識を持つ
出退勤が自由になるだけ,「時間に対してルーズになる制度」ではない,ということを従業員に十分に理解させる必要があります。
従業員一人一人の自律性と責任を伴い,生産性を意識して働かなければならないことを周知しましょう。
対象者の範囲は十分に検討する
フレックスタイム制を導入することで会社全体の業務に支障が出る,或いは,そもそもフレックスタイム制にする必要がない部署に,
フレックスタイム制を安易に導入してはいけません。また,パートタイマーや契約社員まで
フレックスタイム制を導入しても良いのか,導入前に十分検討する必要があります。
労働時間の管理はしっかりと
フレックスタイム制を導入したからといって,労働時間管理を行わなくてよいわけでは決してありません。
タイムカードやICカード等で出退勤を正確に把握する必要性は,通常の労働時間制と同様です。
導入により生産性が向上したのか,導入後の効果検証を行う
フレックスタイム制は生産性の向上,離職率の改善をメリットして行うものとされています。
自社においてこれらの効果が生じているのか,導入後の検証を怠らないようにしましょう。企業によっては,
フレックスタイム制を導入して却って長時間労働が増える,ルーズな従業員が増えて生産性が低下した,という事例もあります。
フレックスタイム制に関する就業規則の記載例
(適⽤労働者の範囲)
第○条 次の従業員(以下「適用社員」という)について,フレックスタイム制を適用する。
1 営業職
2 商品企画部
3 システム制作部
4 課長以上の管理職
5 その他雇用契約においてフレックスタイム制の適用に合意した社員
(清算期間及び総労働時間)
第○条 清算期間は1箇⽉間とし、毎⽉1⽇を起算⽇とする。
② 清算期間中に労働すべき総労働時間は、清算期間を平均して1週間当たり40時間を超えない範囲で,1日7時間30分に清算期間中の所定労働日数を乗じた時間数とする。
(標準労働時間)
第○条 標準となる1⽇の労働時間は、7時間30分とする。
(始業終業時刻、フレキシブルタイム及びコアタイム)
第○条 フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員の⾃主的決定に委ねるものとする。ただし、始業時刻につき
従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午前6時から午前10時まで、終業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午後3時から午後7時までの間とする。
② 午前10時から午後3時までの間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)については、所属⻑の承認のないかぎり、所定の労働に従事しなければならない。
(割増賃金)
第〇条 清算期間中の実労働時間が第〇条記載の勤務すべき労働時間を超過した場合には,超過時間について時間外労働の割増賃金を支払う。
(有効期間)
第○条 本協定の有効期間は〇年〇月〇日から1年とする。ただし,有効期間満了の1カ月前までに,会社,従業員いずれからも申し出がないときは,
さらに1年間有効期間を延長するものとし,以降も同様とする。
(その他)
第○条 前条に掲げる事項以外については労使で協議する。
最後に
当事務所では労務管理体制に関するアドバイスを行っております。
就業規則等のチェック・見直しを含めた法律家としてのサポートはもちろん、
顧問弁護士として貴社の状況にあった労務体制の構築のご提案もさせていただきます。
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