【弁護士が解説】知っておくべき!就業規則の記載事項とそのポイント

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就業規則とは

定義

実は「就業規則」の定義を定めた法律規定はありません。

文献によれば,「労働者の集団に適用される労働条件及び職場規律について使用者が定めた規則の総称」を

就業規則と定義することができる,とされています

(「詳解労働法」水町勇一郎著 東京大学出版会 170頁)。

端的に言えば,「職場のルールブック」のようなものです。

本記事においては,上記の理解を前提に,就業規則について述べていくこととします。

作成義務

労働基準法(以下「労基法」といいます)は,常時10人以上の労働者を使用する使用者に,所定の事項を記載した就業規則の作成を義務付けています(89条)。

この点,「労働者」とは,パートタイマーや契約社員も含まれます。

また,「常時10人以上の労働者を使用する」常態として10人以上の労働者を使用しているという意味であり,

例えば,通常10人以上使用しているが一時的に10人未満になっている場合も含むとされています。

他方,常時使用する労働者が10人未満の使用者は,労基法上就業規則を作成する『義務』はありません。

ですが,従業員が10人未満の会社であっても,人事労務管理上,可能な限り就業規則を作成することが好ましいと考えます。

就業規則の3種類の記載事項

就業規則に記載する事項としては,

  1. 必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」
  2. 制度を設ける場合はその旨記載しなければならない「相対的記載事項」
  3. 当事者が事由に定めることのできる「任意的記載事項」

の3種類があります(労基法89条)。

絶対的記載事項及び相対的記載事項のうち,一部でも記載を欠く場合は,就業規則の作成義務違反となります。

もっとも,その場合でも就業規則がすべて無効になるわけではなく,違反がある事項に限り無効となります。

これらの記載事項のうち一部を,例えば「賃金規程」「退職金規程」といったように,

別紙とするなどして別の規定で作成することも可能です(但し,就業規則と一体としてなすものとする旨の明記は必要となります)。

また,パートタイム労働者など特定の労働者グループについて,通常の就業規則とは

別個の就業規則(「短時間労働従業員規則」等の表題で)を作成することも可能です。

この場合,適用関係を明確にするため,通常の就業規則において,当該労働者について

適用除外及び別個規則に委任する旨定めておくことが望ましいです。以下,それぞれ説明します。

絶対的必要記載事項

ア 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇 並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項

例えば,「1日8時間とする」とだけではダメで,「始業は午前〇時,終業は午後〇時」と明確に記載する必要があります。

変形労働時間制(労基法32の2,32の4)やフレックスタイム制(同32の3)も,絶対的必要記載事項とされています。

イ 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の 締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

例えば,賃金支払日,支払いは振込か,日給・週給・月給いずれを取るのかも記載しなければなりません。

ウ退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

例えば,定年制,契約期間満了,解雇,合意解約など労働契約終了に関するすべての原因を記載する必要があります。

相対的必要記載事項

退職手当に関する事項

退職金の不支給又は減額事由も相対的必要記載事項と考えられています。

臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項

食費、作業用品その他の負担に関する事項

「その他の負担」には,社宅費など労働契約に基づき従業員に負担させるものが含まれます。

 安全衛生に関する事項

 職業訓練に関する事項

災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項

表彰、制裁に関する事項

「制裁」とは,懲戒処分を意味します。

その他全労働者に適用される事項

配置転換,出向,休職等の人事異動に関する事柄,福利厚生,出張旅費などが該当すると考えられます。

任意的記載事項(の例)

企業理念

就業規則を設けた趣旨

就業規則の変更の際労働組合と協議すること

就業規則を作成・変更する際の手続き

意見聴取

使用者は,就業規則の作成または変更について,当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合,

それがない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聞かなければなりません(労基法90条1項)

ここでいう「労働者の過半を代表する者」については,

  1. 労基法上の「管理監督者」以外であること
  2. 選出の方法として,就業規則の作成及び変についての過半数代表者であることを明らかにして,投票・挙手・労働者の話し合い等によること
  3. 使用者の意向に基づき選出された者でないこと

の3つが要件とされています(労働基準法規則6条の2)。

届出

使用者は,就業規則を行政官庁に届け出なければなりません(労基法89条)。

また,届け出の際は,上述の労働者の過半数代表者から聴取した意見を記した書面を添付しなければなりません(労基法90条2項)。

この書面は,過半数代表者の署名又は記名押印が必要となります(同条2項)。

周知

使用者は,就業規則を

  1. 常時各作業場の見やすい場所に掲示し又は備え付けること
  2. 書面を交付すること
  3. CD-R等に記録し,労働者がその内容を常時確認できる機器(PC等)を設置すること

のいずれかの方法で,労働者に周知しなければなりません(労基法106条,労働基準法規則52条の2)。

変更

ア 労働契約法は,労働者及び使用者は,その合意により,労働契約の内容である労働条件を変更することができること(労働契約法8条),

労働者の同意なく,終業起訴の変更によって労働者の不利益に労働条件の変更をすることができないことを規定しています(労働契約法9条)。

イ ただし,労働契約法はさらに,10条本文において,

「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規 則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、

労働条件 の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就 業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、

労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」と定め,

合理的な変更であれば,従業員の同意を不要とする旨規定しています(もっとも,合理的な変更と言えても,「労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては

変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き変更できない」としています。同条但書)。

ウ 条文では,極めて分かりにくいので,要約すると,以下の通りです。

  1. 就業規則の変更は基本的に従業員の同意が必要
  2. 合理的な変更といえ,かつ変更後の就業規則を労働者に周知すれば同意なく変更できる場合がある
  3. ㋑の場合でも,個別の労働契約で「就業規則の変更により変更できない」労働条件を定めていれば変更できない

エ 如何なる変更が「不利益」といえるのかが問題になることがあります。

オ また,「同意」が成立しているかどうかが争われることもあります。

罰則

労働基準法では,就業規則を作成する義務を負う使用者が,作成義務・届け出を怠った場合,30万円以下の罰金を科される旨規定しています(120条1号)。

就業規則の作成・変更する際のポイント

極力変更しないで済む内容で作成する

上記の通り,特に労働条件に関わる就業規則の変更は,個別の同意を得るのに難儀したり,後から同意自体を争われるリスク,

同意を得られても従業員の会社に対する信頼を失い,職場環境が悪化したり,退職する従業員が出てくるリスクなど想定されます。

したがって,就業規則を作成する時点で,将来の変更可能性を勘案しながら,弁護士・社労士と相談しながら作成することが重要といえます。

不利益変更する場合,変更の具体的内容を丁寧に説明する

そうはいっても,不利益変更をしなければならない局面はどうしても出てきます。その場合まず従業員の個別合意を得ることを目指すわけですが,

通り一辺倒の説明だけ行い,合意を取り繕うことは避けましょう。

上記の通り,合意が無効になってしまうリスクや,従業員の会社に対する信用を失ったり,退職リスクが高まるため,です。

このようなリスクを最大限回避するには,不利益変更の必要性とその具体的内容について,数字を明らかにする・図表を活用するなどして,

丁寧に説明し,労働者の意見を慎重に聴く姿勢が肝要です。

不利益変更する場合は,不利益緩和措置を取ることが望ましい

また,不利益変更をする場合は,漸進的・激変緩和措置を取ることで,従業員の抵抗感を減らすことが望ましいでしょう。

最後に

当事務所では社労士登録を行った弁護士就業規則のチェック・見直しに関する業務はもちろん、

その他の労務管理体制の構築を含めたサポートをしております。

各種書類のチェック・見直しにつきましては、スポットでの対応や顧問契約を締結していただき対応をさせていただくことも可能です。まずはお気軽にご相談ください。

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