ハラスメントとは
ハラスメントの定義
ア 令和2年6月1日に施行された改正労働施策総合推進法(以下,「パワハラ防止法」といいます)によれば,
職場におけるパワーハラスメントとは,以下の3つの要素を全て満たすものとしています。
- ①優越的な関係を背景とした言動であって
- ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- ③ 労働者の就業環境が害されること
イ パワーハラスメント防止指針(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
(令和2年厚生労働省告示第5号。以下,「ハラスメント指針」といいます)は,上記①②③について,より具体的に以下の通り述べています。
① 優越的な関係を背景とした言動
「優越的な関係」とは,抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係のことを言うとし,このような関係性を背景に行われる以下のような言動をいうとしています。
・職務上の地位が上位のものによる言動
・同僚又は部下による言動で,業務上必要な知識や経験を有しており当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な者による言動
・同僚又は部下からの集団による言動で,これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」とは,社会通念に照らし,明らかに業務上必要性がない,または態様が相当でないことを言います。
③ 「労働者の就業環境が害される」
当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、
能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを言うとされています。
また,この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で 当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、
就業する上で看過できない程度 の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準となります。
ハラスメントの種類
パワーハラスメントは,以下の通り,大きく6つに分けられます。
身体的攻撃
これはわかりやすいですね。殴打,足蹴り,物を投げるといった故意による暴行・傷害のことを言います。
精神的攻撃
下記のような例が「精神的攻撃」にあたります。
- 人格否定
- 性的志向・性自認に関する侮辱的な言動
- 必要以上長時間にわたる厳しい叱責を繰り返すこと
- 他の労働者の面前で大声の威圧的な叱責を繰り返し行うこと
- 相手の能力を否定し,罵倒するような内容の電子メール等を相手を含む複数の労働者に送信すること
人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
下記のような例が「人間関係からの切り離し」にあたります。
- 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別 室に隔離したり、自宅研修させたりすること。
- 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。
過大な要求
下記のような例が「過大な要求」にあたります。
- 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること。
- 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。
- 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。
過小な要求
下記のような例が「過小な要求」にあたります。
- 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。
- 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。
個への侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
下記のような例が「個への侵害」にあたります。
- 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
- 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。
ハラスメント対策の強化の重要性
2022年4月の法改正(事業主の責務)
パワハラ防止法は,パワハラの具体的な定義を明記するのみならず,事業主に、パワーハラスメント防止のため、
相談体制の整備等の雇用管理上の措置を講じることを義務付けました。
(中小企業は令和4年3月31日迄努力義務とされていましたが,同年4月1日から義務化されます)
今まで特段対策をしてこなかった中小企業においては,ハラスメント対策は急務といえます。
ハラスメント対策の放置することのリスク
ハラスメント対策を怠ると生じる経営上のリスクとは何でしょうか。
社員への影響
ハラスメントを受けた従業員は心身の健康を害し,休職,退職を余儀なくされることが考えられます。
また,ハラスメントを直接受けていない従業員に関しても,ハラスメントが放置されている職場は雰囲気が悪く,職場全体の環境が悪化してしまいます。
会社への影響
ハラスメント被害を受けた従業員からの損害賠償請求があれば,会社は経済的損失を負います。
のみならず,ハラスメントが放置されると,社員のモラル・生産性が低下し,業績悪化を招きます。
またハラスメント被害が放置される職場は,直接の被害者の退職だけでなく,周りの従業員の退職も引き起こします。
人材不足の時代に,人材の流出は会社にとっては大きなダメージといえます。
また,最近は,転職サイトなどで退職者のクチコミが掲載されており,求職者はこれをみて,オファーするかどうか検討しますから,
ハラスメントが蔓延している会社であると認識されると,採用が難しくなります。
すなわち,被害賠償による経済的損失にとどまらず,業績悪化,企業イメージの低下,人材不足,中長期的な経営に悪影響を及ぼす恐れがあります。
ハラスメント研修の実施
このような企業へのハラスメント対策に有効的なのが「ハラスメント研修」の実施です。
企業内で研修を行うことで問題行動のある社員に啓発できるだけでなく,ハラスメント行為を未然に防ぐことができます。
ハラスメント研修のコンテンツ
管理職向けの研修と,非管理職向けの研修では,アプローチが若干異なりますので,それぞれ分けて研修を実施しますが,基本的には,
- ハラスメントとは何か
- ハラスメント被害を予防するにはどうすればよいか
- 実際にハラスメント被害が生じたときにどう対応すべきか
の3点を理解してもらうことがポイントにあります。
管理職向けのハラスメント研修
ハラスメントの定義と上記①1及び2で述べた,ハラスメントの定義を満たす3要素と
ハラスメントに当たる6類型を具体的なイメージとともに理解してもらうこと,
その上で,自らの部下同僚に対する言動を思い返していただき,ハラスメントに当たるようなことをしていなかったか(現にしていないか)を振り返っていただきます。
さらに,今後自身がハラスメント加害者にならないために,どのような言動に気を付けるか。
部下とのコミュニケーションの取り方,時代に合った指導教育の考え方について学んでいただくようにしています。
非管理職向けのハラスメント研修
非管理職の従業員の方は,多くの場合,加害者ではなく,ハラスメントの被害を受ける可能性がある方,ということになります。
従って,ハラスメントとは何かを理解してもらう目的としては,上司から何かしらハラスメント的な言動を受けた際に,
当該言動が「ハラスメントか否か」を判断できるようになること,となります。
ハラスメント被害を未然に防ぐ若しくは最小限に食い止めるポイントは,ハラスメントに当たる・当たり得る事象を会社がいち早く察知することです。
そのため,被害を受けた従業員が,ハラスメント被害を受けたと自覚し,会社に相談できる環境を整えることが肝要です。
従業員教育のポイント
上記のような研修の実施はもちろんですが,企業の経営者様においては
従業員への教育体制を見直したうえで,問題が起きないような体制づくりが重要です。
従業員への教育を行ううえでのポイントは,下記の3点です。
ハラスメントは許さないという「トップからの強いメッセージ」を発する
良くも悪くも,企業内の文化は,経営トップの考え方や態度に大きく影響を受けます。
やはり,ハラスメント対策の第一歩としては,経営トップが「ハラスメントは断固として許さない」「ハラスメント根絶に積極的に取り組む」という
強い姿勢・決意を従業員に伝えることが何より大事です。
ハラスメント対策は,「継続的に」実施する
ハラスメントを許さない企業文化は,1度やそこら研修を行っただけでは形成されません。
管理職のみならず従業員全体に,ハラスメントとは何か,ハラスメント被害を生まないために何をすべきかの理解を浸透させるためには,
最低でも年数回継続的にハラスメント対策の研修をする等の対策を継続的に実施することが肝要です。
被害を「早期に」相談できる環境を整える
問題が発生したら早期に相談や苦情に適切に対応できる仕組みを作りましょう。
2020年6月,パワハラ防止法(労働施策総合推進法)の改正により、企業等がハラスメントに適切に対応するために必要な体制の整備、
具体的にはハラスメントの相談窓口を設置すること等が定められ、中小企業でも2022年4月から義務付けられることとなっています。
厚労省が告示した「職場におけるハラスメント関係指針」(以下,「ガイドライン」といいます)によれば,相談窓口設置に関し,
事業主に対して,「相談対応窓口を予め定めること」と,「これを周知すること」,「相談窓口担当者が相談に適切に対応できるようにすること」を要求しています。
また,相談窓口を社内に設置する,例えば担当者を置いて社内で教育すると言った余裕がない,という企業様においては,
ハラスメント相談の外部窓口を弁護士等の適切な外部の機関に相談対応を委託することも認められています。
最後に
当事務所ではハラスメント対策に向けた社内体制の構築に向けて、下記のようなサポート内容をご用意しております。
ハラスメント相談窓口サービス
2022年4月に中小企業にも適用となるパワハラ防止法の改正にともない義務化されている相談窓口の設置について
弊所が「外部相談窓口」となって、貴社の従業員のハラスメント相談に対応をいたします。
顧問弁護士とは異なり、中立的な立場として従業員の方の相談に対応させていただきます。
詳細についてはこちらの記事よりご確認いただけますので、サポート内容にご興味のある企業様は、ぜひご相談ください。
顧問契約による継続的なサポート
「ハラスメントに関する体制構築に向けて、具体的なアドバイスが欲しい」という企業様につきましては
顧問契約によるサポートをご検討いただけたらと存じます。
顧問契約による継続的なサポートをさせていただくことで、貴社で抱えている課題の整理から
課題の解決に向けたステップまで関与をさせていただくことが可能です。