雇用契約書の書き方完全ガイド|労基法対応で見落とせないポイントを徹底解説

企業法務コラム

雇用契約書の作成は、企業運営において最も重要な法的手続きの一つです。労働基準法の改正により、2024年以降は記載事項の明示ルールがさらに厳格化され、不備があると法令違反だけでなく従業員とのトラブルの原因となります。本記事では、雇用契約書の正しい書き方から、最新の法改正対応まで実践的なポイントを詳しく解説します。

雇用契約書とは何か

雇用契約書の正しい作成方法を理解するには、まず基本的な法的位置づけを把握することが重要です。多くの企業で混同されがちな書類の違いを明確にしましょう。

雇用契約書と労働条件通知書の違い

雇用契約書は労働者と使用者が労働条件について合意したことを証明する契約書であり、双方の署名捺印が必要です。一方、労働条件通知書は使用者が労働者に対して一方的に労働条件を明示する書類です。実務上は両方の機能を兼ね備えた「雇用契約書兼労働条件通知書」として作成することが一般的で、これにより法的要件を満たしながら合意の証拠も残せます。

法的効力と就業規則との関係性

雇用契約書は個別の労働契約として就業規則よりも優先される場合があります。労働契約法第7条により、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定めた場合、その部分は無効となり就業規則の定めが適用されます。しかし、就業規則よりも有利な条件を雇用契約書で定めることは可能です。

例えば、就業規則では年次有給休暇の付与日数が法定通りでも、雇用契約書でより多くの有給日数を約束することができます。この場合、雇用契約書の条件が適用されることになります。

雇用契約書作成の法的義務と罰則

労働基準法第15条では、使用者は労働契約締結時に労働条件を明示することを義務づけています。書面での明示が必要な事項を口頭のみで伝えた場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、明示された労働条件と実際の労働条件が相違する場合、労働者は即座に労働契約を解除できる権利を持ちます。

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雇用契約書の必須記載事項

雇用契約書に記載すべき事項は「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」に分類されます。これらの正確な理解と適切な記載が法令遵守の基盤となります。

絶対的明示事項の記載方法

絶対的明示事項は必ず書面で明示しなければならない事項です。労働契約期間、就業場所および業務内容、始業・終業時刻や休憩時間、休日・休暇、賃金の決定・計算・支払方法、退職に関する事項が該当します。これらの事項は曖昧な記載ではなく、具体的かつ明確に記載することが法的トラブル回避の鍵となります。

契約期間については、「期間の定めなし」または「○年○月○日から○年○月○日まで」と明確に記載します。具体的には、「令和6年4月1日から令和7年3月31日まで(プロジェクト完了まで)」のように、期間と条件を併記することで双方の認識を一致させることができます。

業務内容は「営業業務全般」といった包括的表現ではなく、「医療機器の営業活動、既存顧客へのアフターフォロー、新規開拓のための提案活動、売上実績の管理・報告業務」のように具体的に列挙することが重要です。

相対的明示事項の記載義務

相対的明示事項は、制度を設ける場合に明示が必要な事項です。退職手当、臨時賞与、食費・作業用品等の負担、安全衛生、職業訓練、災害補償・業務外傷病扶助、表彰・制裁、休職などが含まれます。これらは制度がある場合のみ記載義務が生じますが、「制度なし」と明記することで後のトラブルを防げます。

例えば、退職金制度がない場合は「退職手当:制度なし」と明記し、将来的に制度導入の可能性がある場合は「退職手当:現在制度なし(ただし、将来的に制度を設ける場合は別途協議)」と記載することで、双方の認識を明確にできます。

2024年労働条件明示ルール改正への対応

2024年4月から労働条件明示ルールが改正され、有期労働契約の締結時には就業場所・業務の変更範囲を明示することが義務化されました。また、無期転換申込権や無期転換後の労働条件についても明示が必要となります。既存の雇用契約書の見直しと新様式への対応が急務です。

明示事項の種類記載必要度主な内容
絶対的明示事項必須(書面)契約期間、業務内容、就業場所、労働時間、賃金、退職
相対的明示事項制度がある場合退職手当、賞与、食費負担、安全衛生等
2024年追加事項有期契約時必須就業場所・業務変更範囲、無期転換権利

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雇用契約書作成の具体的手順

効果的な雇用契約書の作成には、体系的なアプローチが必要です。準備段階から最終確認まで、漏れのない手順を踏むことで法的リスクを最小化できます。

事前準備と情報収集のポイント

雇用契約書作成の第一歩は、採用予定者の雇用形態と職種に応じた情報収集です。正社員、契約社員、パートタイム労働者それぞれで必要な記載事項が異なるため、労働者の属性を明確にしてから作成に着手します。最新の労働基準法施行規則や厚生労働省のモデル就業規則を確認し、法改正に対応した様式を使用することが重要です。

ECサイト運営会社でマーケティング担当者を採用する場合、在宅勤務の可能性、出張の頻度、使用するツールやシステム、成果測定の方法など、職種特有の労働条件を事前に整理しておきましょう。また、業界特有の守秘義務や競業避止義務についても検討が必要です。

基本情報の記載方法と注意点

契約当事者の基本情報は正確かつ詳細に記載します。使用者については会社名、所在地、代表者名を記載し、労働者については氏名、住所、生年月日を明記します。印鑑についても実印または銀行印の使用を推奨し、後の争いを避けるために印鑑証明書の添付も検討しましょう。

例えばクリニックで看護師を採用する場合、医療従事者として必要な資格番号や有効期限も併せて記載し、資格証明書の写しを添付することで、後の資格確認作業を効率化できます。

労働条件の具体的記載手法

労働条件の記載は具体性と明確性を重視します。勤務時間については「9時から17時まで(休憩12時から13時)」のように明確に記載し、フレックスタイム制の場合はコアタイムと標準労働時間を明示します。賃金については基本給、諸手当、支払日、計算期間、支払方法を詳細に記載し、残業代の計算方法も明確にします。

在宅勤務を含む働き方の場合、「原則として会社指定のオフィスでの勤務とするが、業務上必要と認められる場合は在宅勤務を許可する。在宅勤務時の労働時間管理は会社指定のシステムにより行う」のように、勤務場所の変更可能性と管理方法を明記します。

特約事項と個別条件の設定

業種や職種に応じた特約事項の設定も重要です。守秘義務、競業避止義務、知的財産権の帰属、副業禁止規定などを必要に応じて盛り込みます。ただし、これらの特約は労働者の権利を不当に制限しないよう、合理的な範囲内で設定することが必要です。

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トラブル回避のためのチェックポイント

雇用契約書の不備は労使トラブルの原因となります。過去の判例や実務経験に基づく具体的なチェックポイントを理解し、予防措置を講じることが重要です。

頻発するトラブル事例と予防策

最も多いトラブルは「聞いていた仕事内容と違う」という業務内容の認識相違です。「営業業務」と記載されていたにも関わらず、実際にはテレアポ中心の業務だったケースや、「事務職」として採用されたが営業ノルマを課されたケースなどが頻発しています。業務内容は主要業務から付随業務まで具体的に列挙し、業務の変更可能性についても明記することでトラブルを予防できます。

例えばECサイト運営会社でカスタマーサポート担当者を採用する場合、「電話・メール・チャットによる顧客対応、商品に関する問い合わせ対応、返品・交換手続きの案内、顧客データの入力・管理、月次レポートの作成、その他付随する業務」のように詳細まで記載します。

勤務時間と残業に関する明示

労働時間の記載不備も重大なトラブル原因です。「所定外労働あり」という記載だけでは不十分で、36協定の内容や残業代の計算方法、みなし労働時間が適用される場合の条件も明確にする必要があります。特に管理職候補として採用する場合、管理監督者の要件と労働基準法第41条(管理監督者に労働時間、休憩、休日に関する規定を適用しない規定)の適用について慎重に検討します。

管理監督者候補を採用する場合には「管理監督者としての要件を満たした時点で時間外労働に関する規定の適用を除外する。ただし、要件を満たすまでは一般従業員と同様の労働時間管理を行う」のように段階的な適用を明記することで、後の争いを避けられます。

有期契約と無期転換に関する注意点

2024年の法改正により、有期労働契約では無期転換申込権について明示することが義務化されました。5年を超えて反復更新された有期契約労働者は無期契約への転換を申し込める権利を持つため、この旨を契約書に明記し、転換後の労働条件も事前に定めておく必要があります。

契約期間を1年とする場合、「本契約は期間満了により終了するが、会社の業績及び本人の勤務状況により更新することがある。なお、通算契約期間が5年を超えた場合、労働者は無期労働契約への転換を申し込むことができる」と明記します。

社会保険と労働保険の適用条件

パートタイム労働者の場合、社会保険の適用条件を明確に記載することが重要です。週20時間以上の勤務や月額賃金8.8万円以上など、適用要件を満たす場合の加入義務について明示し、労働者の理解を得ておきましょう。また、労災保険は全労働者に適用されることも併せて説明します。

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雇用形態別の雇用契約書作成ポイント

雇用形態により記載すべき事項や留意点が大きく異なります。正社員、契約社員、パートタイム労働者それぞれの特性を理解し、適切な契約書を作成することが重要です。

正社員の契約書作成要点

正社員の雇用契約書では期間の定めがないことを明記し、昇進・昇格の可能性、転勤や配置転換の範囲、退職金制度の有無などを詳細に記載します。また、管理職候補として採用する場合は、将来的な管理監督者としての地位と待遇についても言及します。正社員は長期雇用を前提とするため、キャリアパスや能力開発に関する会社の方針も併せて記載することで、採用後のミスマッチを防ぐことにつながります

「入社後2年間は一般職として経験を積み、会社が定める基準を満たした時点でマネージャー職への昇格を検討する。マネージャー職就任時は別途職務給を支給し、部下指導責任を負う」のように段階的なキャリアプランを明示すると良いでしょう。

契約社員・有期雇用の契約書作成要点

有期雇用契約では契約期間を明確に定め、更新の可能性と更新判断基準を詳細に記載します。2024年の法改正により、就業場所・業務の変更範囲の明示が義務化されたため、「契約期間中の配置転換は原則として行わない」または「業務上必要な場合は同一事業所内での配置転換を行うことがある」などの記載が必要です。

「契約期間:令和6年4月1日から令和7年3月31日まで。更新の可能性:業務量及び勤務成績により更新することがある。更新は最大5回まで(通算契約期間は6年間)とし、その後は正職員への転換または契約終了とする」のように明確な方針を示します。

パートタイム・アルバイトの契約書作成要点

パートタイム労働者の契約書では、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート労働法)に基づく追加の明示事項があります。昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口の設置について明記が必要です。また、社会保険の適用条件についても詳細に説明し、週の労働時間や月収に応じた加入義務について労働者の理解を得ましょう。

例えば週3日勤務のパートタイム事務職を採用する場合、「勤務日:月・水・金曜日、勤務時間:10時から15時まで(休憩なし)、週所定労働時間:15時間。社会保険加入:雇用保険のみ加入(健康保険・厚生年金保険は加入対象外)」のように具体的に記載します。

試用期間の設定と注意事項

試用期間を設ける場合は、期間の長さ、期間中の労働条件、本採用の判断基準、期間中の解雇に関する手続きを明確に定めます。試用期間中であっても労働基準法の保護は及ぶため、14日を超える場合は解雇予告手当の支払いが必要になることも説明します。

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雇用契約書の運用と管理体制の構築

適切な雇用契約書を作成した後は、継続的な運用と管理体制の構築が重要です。法改正への対応や契約内容の変更手続きを含めた包括的なシステムを整備する必要があります。

契約書の保管と管理システム

雇用契約書は3年間の保存義務があります。紙媒体での保管の場合は適切な保管場所の確保と整理方法の確立が必要ですが、電子保存も可能です。電子保存の場合は改ざんや消失を防ぐシステムの導入と、労働者がいつでも内容を確認できる環境整備が求められます。契約書番号の付与や版数管理により、いつでも最新の契約内容を確認できる体制を構築することが運用効率化の鍵となります。

契約内容の変更と合意形成プロセス

労働条件の変更は原則として労使双方の合意が必要です。昇給、労働時間の変更、配置転換など、契約内容に影響する変更が生じた場合は、変更契約書または労働条件変更通知書を作成し、労働者の同意を得る手続きを確立します。特に不利益変更の場合は、変更の必要性と合理性を十分に説明し、労働者の理解を得ることが重要です。

勤務時間を延長する場合には、「業務量増加に伴い勤務時間を8時間から9時間に変更する。これに伴い基本給を月額○○円増額し、時間外労働の取扱いについては就業規則の定めによる。」のように、変更理由と労働者にとってのメリットを明示します。

法改正への継続的対応体制

労働関連法規は頻繁に改正されるため、定期的な契約書の見直しと更新が必要です。年1回の定期チェックに加え、法改正情報を常に収集し、必要に応じて契約書を改訂する体制を構築します。特に2024年の労働条件明示ルール改正のような大きな変更の場合は、既存の全契約書の見直しと新様式への移行計画が必要です。

中小企業では社会保険労務士との顧問契約により、法改正情報の提供と契約書の見直しサポートを受けることで、専門的知識不足を補完できます。また、業界団体の情報提供サービスや厚生労働省のメール配信サービスを活用することで、最新情報を効率的に収集できます。

トラブル発生時の対応手順

雇用契約に関するトラブルが発生した場合の対応手順を事前に定めておきましょう。労働者からの苦情や相談に対する一次対応窓口の設置、労働基準監督署への対応方法、弁護士など専門家への相談基準を明確化します。初期対応の適切性がトラブルの拡大防止に直結するため、管理職への研修実施も重要です。

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まとめ

本記事では、雇用契約書の正しい書き方から最新の法改正対応まで、実践的なポイントを詳しく解説しました。労働基準法に準拠した適切な雇用契約書の作成は、企業の法的リスクを軽減し、従業員との良好な関係構築の基盤となります。

  • 雇用契約書と労働条件通知書の違いを理解し、両方の機能を兼ね備えた書類を作成する
  • 絶対的明示事項と相対的明示事項を正確に把握し、漏れのない記載を行う
  • 2024年法改正に対応した最新の記載事項を盛り込む
  • 業務内容や労働条件は具体的かつ明確に記載してトラブルを予防する
  • 雇用形態別の特徴を理解し、それぞれに適した契約書を作成する
  • 継続的な管理体制を構築し、法改正への対応と契約内容の適切な変更を行う

雇用契約書の作成は一度作れば終わりではなく、法改正や事業環境の変化に応じて継続的に見直しが必要です。適切な契約書により従業員の安心感を高め、生産性向上にもつながる職場環境を構築していきましょう。

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