ECサイト運営は大きなビジネスチャンスを秘めている一方で、さまざまな法的リスクが潜んでいます。特定商取引法や個人情報保護法をはじめとする関連法規への違反は、業務停止命令や罰金だけでなく、企業の信用失墜やブランド価値の毀損にもつながる深刻な問題です。本記事では、ECサイト運営者が知っておくべき主な法的リスクと具体的な対策手順、さらに顧問弁護士を活用することで得られるメリットについて詳しく解説します。
ECサイト運営で押さえるべき主な関連法規
ECサイト運営においては、複数の法律やガイドラインを遵守する必要があります。違反すると深刻な法的リスクを招く可能性があるため、まずは関連する主な法規について理解を深めることが重要です。
特定商取引法
特定商取引法は、ECサイト運営において最も重要な法律の一つです。この法律は消費者を保護するため、事業者に対して特定の表示義務や書面交付義務などを課しています。
ECサイトは「通信販売」に該当するため、販売業者の氏名、住所、電話番号、商品の価格、送料、支払方法、引渡し時期、返品の可否などの表示が義務付けられています。これらの情報は「特定商取引法に基づく表記」として、消費者が容易に確認できる場所に掲載することが必須となります。
特に返品については、返品特約を設ける場合はその内容を明確に記載し、特約がない場合は商品到着から8日以内であれば消費者が返品できることを伝えなければなりません。なお、通信販売にはクーリングオフ制度は原則として適用されません。
特定商取引法の概要は、消費者庁のHPがよくまとまっており参考になります。
個人情報保護法
ECサイト運営では顧客の氏名、住所、電話番号、メールアドレス、クレジットカード情報など、大量の個人情報を取り扱います。個人情報保護法では、これらの情報の取得、利用、保管、廃棄に関して厳格なルールが定められています。
特に重要なのは、個人情報を取得する際の利用目的の明示と同意の取得です。また、取得した個人情報を第三者に提供する場合は、原則として本人の同意が必要となります。プライバシーポリシーの策定と適切な掲載は、個人情報保護法遵守の基本です。
さらに、個人情報の漏えいや紛失を防ぐための安全管理措置も義務付けられており、技術的・組織的な対策を講じる必要があります。万が一、個人情報の漏えい事故が発生した場合は、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が法的に義務付けられています。
個人情報保護法は、条文も複雑で、一般の方にはかなり分かりにくい法規制になっています。ざっと理解したい方は、以下の政府広報のHPが参考になります。

景品表示法と薬機法
ECサイトにおける商品の宣伝や広告には、景品表示法と薬機法による規制があります。景品表示法では、商品やサービスの品質、規格、価格等について、実際よりも著しく優良または有利であると誤認させる表示を禁止しています。
特にクリニック関連のECサイトでは、医療機器や化粧品、健康食品などを扱う場合が多く、薬機法による厳しい広告規制の対象となります。効能・効果を謳う際は、承認された範囲内での表現に留める必要があり、医薬品的な効能効果を示す表現は避けなければなりません。
「必ず効果がある」「絶対に治る」といった断定的な表現や、体験談を用いた誇大広告は法的リスクが高いため、商品説明や広告文作成時は特に注意が必要です。
ECサイト運営で起こりうる具体的なリスクと影響
ECサイト運営では、法的リスクが現実化すると深刻な影響を受ける可能性があります。ここでは、実際に発生しうるリスクとその影響について紹介します。
不正会員登録と本人確認義務違反
ECサイトでは、なりすましや虚偽の情報による不正な会員登録が問題となることがあります。不正会員登録を放置すると、詐欺的な取引の温床となったり、未成年者への不適切な商品販売につながったりする可能性があります。また、クレジットカードの不正利用にも結びつきやすく、加盟店としての契約継続にも影響を与えかねません。
このような問題への対策として、会員登録時の本人確認手続きを厳格化し、定期的な会員情報の見直しを行うことが重要です。SMS認証や身分証明書の提出を求めるなど、多層的な確認システムの導入を検討しましょう。
個人情報漏えいによる信用失墜リスク
顧客データベースへの不正アクセスやシステムの脆弱性を狙った攻撃により、大量の個人情報が流出するケースが後を絶ちません。ECサイトで個人情報の漏えい事故が発生すると、法的責任だけでなく社会的信用の失墜という深刻な影響を受けます。
個人情報保護法違反の場合、個人情報保護委員会から勧告や命令を受ける可能性があり、改善されない場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。しかし、実際の損失はこれだけにとどまりません。
情報漏えい事故が発生すると、被害者への損害賠償、システム復旧費用、信用回復のための広告費用など、数千万円から数億円規模の損失が発生することもあります。一度失った顧客からの信頼を回復するには長期間を要し、場合によってはビジネス継続が困難になることもあることを理解しておきましょう。
クレジットカード不正利用と加盟店責任
ECサイトでのクレジットカード決済では、カード情報の不正取得や不正利用のリスクが常に存在します。2025年3月末より、クレジットカードセキュリティガイドラインによりEMV 3-Dセキュアの導入が義務化されており、対応が不十分な場合は加盟店契約の継続が困難になる可能性があります。
不正利用が発生した場合、加盟店はチャージバック(売上取消)により損失を被るだけでなく、不正利用率が高いサイトと判断されると決済代行会社との契約を解除される危険性もあります。決済手段を失うことは、ECサイト運営にとって致命的な打撃となります。
セキュリティ対策は「努力義務」から「実質必須」へと移行しており、対応の遅れは直接的にビジネス継続リスクとなることを認識しておく必要があります。
ダークパターンによる消費者保護法違反
近年、消費者を欺いたり誤解させたりする「ダークパターン」と呼ばれるWebデザインや販売手法が問題視されています。意図的に分かりにくい解約手続きや、誤解を招く料金表示、偽の緊急性を演出する表示などが該当します。
消費者庁は2023年にダークパターンに関する報告書を公表し、景品表示法や特定商取引法の観点から問題となる行為を明確化しました。そのため、これらの手法を用いた場合は、措置命令や課徴金納付命令の対象となる可能性があります。
定期購入の仕組みや解約条件について透明性を保つなど、消費者が納得して購入できる仕組みづくりは、法的リスクの回避だけでなく長期的な顧客関係構築にも不可欠といえます。
法的リスクを防ぐための具体的な対策
ECサイト運営における法的リスクを最小限に抑えるためには、継続的なリスク管理体制の構築が重要です。
サイト開設前の法的チェック
ECサイトを開設する前段階で、法的要件を満たしているかどうかを徹底的にチェックすることが重要です。まず、取り扱う商品やサービスに関連する法律を洗い出し、必要な許認可や届出を確認します。
例えば、食品を販売する場合は、食品衛生法に基づく営業許可が必要になります。また、酒類を取り扱う場合には、税務署から通信販売酒類小売業免許を取得しなければなりません。この他にも、医薬品や化粧品、ペット関連商品の販売など、別途許可や届出が必要な場合があります。これらの手続きは時間がかかるため、早めに準備を進めることが重要です。
開設前のチェックリストを作成し、特定商取引法表記、プライバシーポリシー、利用規約の内容を専門家と共に検討することが効果的です。この段階で見落としがあると、後で大幅な修正が必要になり、コストと時間の両面で大きな負担となります。
定期的な法改正の確認
法律や規制は定期的に改正されるため、継続的な確認体制を整備することが不可欠です。特に個人情報保護法や特定商取引法は近年頻繁に改正されており、最新の要件に対応していないと法的リスクが高まります。
効果的な確認方法としては、消費者庁や個人情報保護委員会の公式サイトを定期的にチェックしたり、業界団体のメーリングリストに登録したりすることが挙げられます。また、法律事務所が発行するニュースレターやセミナーも有用な情報源となります。
社内でも法務担当者を決めて、月次または四半期ごとに法改正の影響を評価し、必要に応じてサイトの修正や運用手順の見直しを行う仕組みを作りましょう。法改正への対応遅れは「知らなかった」では済まされないため、組織的な対応体制が重要となります。
セキュリティ対策の強化と継続的改善
ECサイトのセキュリティ対策は、技術的な対策と運用面での対策を組み合わせて実施する必要があります。技術的な対策としては、ウェブサイトの通信を暗号化し、データの盗聴や改ざんを防ぐためのSSL証明書の導入、ウェブアプリケーションをサイバー攻撃から保護するためのWAF(Web Application Firewall)の設置、定期的な脆弱性診断の実施などが基本となります。
クレジットカード情報を扱う場合は、PCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)への準拠も重要です。これは、クレジットカード情報の安全な取り扱いに関する国際的なセキュリティ基準です。また、2025年3月末から義務化されているEMV 3-Dセキュアへの対応も行う必要があります。
運用面では、従業員への情報セキュリティ教育、アクセス権限の適切な管理、インシデント対応手順の策定と訓練などが重要です。セキュリティ対策は一度実施すれば終わりではなく、継続的な改善が必要となります。
透明性のある運営とユーザビリティの向上
法的リスクを回避し、顧客からの信頼を得るためには、消費者にとって分かりやすく透明性のある運営を心がけることが重要です。具体的には、商品の価格や送料、支払い条件、返品・交換条件などを、消費者が誤解することのないようウェブサイト上で明確に表示することが求められます。商品詳細ページや購入手続きの最終確認画面など、消費者が購入を決定する重要な段階でこれらの情報を容易に確認できるように配置しましょう。
また、定期購入サービスを提供する場合は、初回価格だけでなく2回目以降の価格、解約方法、解約のタイミングなどを分かりやすく説明することが必要です。解約手続きも複雑にせず、オンラインで簡単に手続きできる仕組みを用意しましょう。
消費者の立場に立った分かりやすい情報提供は、法的リスクの回避だけでなく顧客満足度向上にもつながる重要な取り組みです。
顧問弁護士活用によるメリット
ECサイト運営における法的リスクを効果的に管理するためには、専門的な知識を持つ顧問弁護士との連携が非常に有効です。一度の相談ではなく、継続的なサポート体制を構築することで、より安全で安心できる運営が可能になります。
顧問弁護士導入による予防的な法務サポート
顧問弁護士を活用する最大のメリットは、問題が発生してから対応するのではなく、事前に法的リスクを予防できることです。ECサイトの企画段階から弁護士が関与することで、法的要件を満たした設計や運用手順を構築できます。具体的には、利用規約やプライバシーポリシーの作成・見直し、新商品販売時の法的チェック、広告表現の審査、契約書の作成・レビューなどを日常的にサポートしてもらえます。
問題が発生してから対応するよりも、事前の予防的なサポートを受ける方が、時間的にもコスト的にもはるかに効率的といえます。
日常的な相談体制による迅速な問題解決
ECサイト運営では、日々様々な法的な疑問や問題が発生します。顧問弁護士がいることで、こうした疑問をすぐに相談でき、迅速な解決が可能になります。電話やメールでの気軽な相談から、緊急時の対応まで、幅広いサポートを受けることができます。
例えば、顧客からクレームを受けた際の対応方法、競合他社からの知的財産権侵害の指摘への対応、行政機関からの問い合わせへの回答など、様々な場面で専門的なアドバイスが必要になります。こうした際に、事業内容を理解している顧問弁護士であれば、的確で実践的なアドバイスを提供してもらえます。
また、定期的な法改正情報の提供や、業界動向に関する情報共有も有益なサポートとなります。顧問弁護士は単なる法的相談相手ではなく、事業パートナーとしての役割も果たしてくれる重要な存在です。
緊急時対応と危機管理体制の構築
ECサイト運営では、個人情報漏えい事故、システム障害、大規模なクレーム発生など、緊急事態が発生する可能性があります。こうした際に、顧問弁護士がいることで迅速で適切な対応が可能になります。
緊急時の対応では、顧問弁護士の専門知識に基づき、法的責任の範囲を正確に把握し、適切な対外発表を行い、被害の拡大を防ぐことが重要です。また、行政機関への報告や被害者への対応についても、適切な手順を踏む必要があります。
顧問弁護士と連携して事前に緊急時対応マニュアルを作成し、連絡体制や対応手順を明確にしておくことで、実際に問題が発生した際にスムーズな対応が可能になります。危機管理体制の構築は、事業継続性を確保するために不可欠といえます。
まとめ
ECサイト運営における法的リスクは多岐にわたり、適切な対策を講じなければ深刻な事業への影響をもたらす可能性があります。特定商取引法や個人情報保護法をはじめとする関連法規への対応から、セキュリティ対策、透明性のある運営まで、総合的なリスク管理が求められています。
- 特定商取引法、個人情報保護法、景品表示法、薬機法など複数の法規制を遵守する必要がある
- 不正会員登録、情報漏えい、クレジットカード不正利用などのリスクへの対策が不可欠
- サイト開設前の法的チェック、定期的な法改正モニタリング、セキュリティ対策の継続的改善が重要
- 消費者目線での透明性のある運営を心がける
- 顧問弁護士の活用により予防的な法務サポートと迅速な問題解決が可能
ECサイト運営を成功させるためには、法的リスクを適切に管理し、安心してビジネス拡大に集中できる環境を整えることが重要です。専門家との連携を通じて、継続的な改善を図っていきましょう。
弁護士法人なかま法律事務所では、「クライアントと真摯に向き合うこと」をポリシーとし、ECサイト運営における法的リスク管理から日常的な相談、さらにはEC業界特有の課題に至るまで、企業経営をトータルでサポートする体制を整えています。迅速なレスポンスと継続的なサポートにより、安心できる事業運営をお手伝いいたします。代表弁護士が社会保険労務士の資格も有しており、労務管理面でも包括的なサポートが可能です。ECサイト運営をご検討の際は、ぜひご相談ください。


